サッカーのルール・用語(観戦者用)を簡単に、初心者にも分かりやすく説明してみた!

今回の記事は、「ワールドカップやJリーグに興味を持ち始めたけれど、ルールがよく分からなくてイマイチ楽しめない」という、サッカー初心者の方のためになるべく簡単に書きました。

とにかく「サッカー観戦を楽しむ」という目線で、知っているとよさそうなルールや用語を分かりやすく解説していきたいと思います。

 

サッカーの基本

以下のルールで対戦します。

  • 11人対11人。
  • 足、もも、胸、頭を使う(腕・肘・手でボールを触らない)。
  • 90分間で、相手のゴールにボールを入れた回数(=得点)が多い方が勝ち。

過去にはなんと、内田篤人選手の同僚のドイツ人選手がお尻で味方にパスをして、それがゴールに繋がった(=お尻でアシストした)こともあります。

ドリブルとパス

サッカーにおける大事な二つの技術、「ドリブル」と「パス」。

ドリブルは、一人でボールを蹴りながら前に運ぶこと。パスは、味方に渡すためにボールを蹴って手放すこと。

どちらも、ボールをなるべく安全に、相手に渡さないように、前に前に動かすことを目標にしています。

ドリブルはボールを取られてしまうリスクが高いですが、相手を抜き去って置いてけぼりにできれば大きなチャンスになります。ドリブルはパスと比べるとハイリスクハイリターンです。

ボールを持った選手は、「次にボールをどこに動かすか」「ドリブルかパスか」を常に考えながらプレーしています。

 

試合時間

サッカーの試合時間は90分間ですが、90分間ぶっ続けでやるわけではありません。

前半45分と後半45分に分かれていて、間に「ハーフタイム」と呼ばれる休憩時間がはさまります。ハーフタイムはだいたい15分です。

また、試合開始のことを「キックオフ」と言います。

 

アディショナルタイム(ロスタイム)

昔は「ロスタイム」と言いましたが、最近は「アディショナルタイム」といいます。意味は同じです。

これは、選手の怪我や交代のために使われてしまった時間を、再度プレー時間として補充するための時間です。

たとえば、選手交代は1回で20秒くらいかかると言われています。試合後半、両チームが3人ずつ(合計6人)選手を交代したら、20秒×6人=120秒。選手交代に2分かかったことになります。

この間、プレーは行われておりませんが時計は進んでしまっておりますので、あとで審判がプレー時間を2分間補充する必要があるのです。この2分間を「アディショナルタイム」と呼びます。この場合、後半は47分間行われることになります。

ふつう、前半のアディショナルタイムは1分。後半のアディショナルタイムは2分~5分ほどあります。後半の方がアディショナルタイムが長いのは、後半の方が疲れによる怪我や交代が増えるからです。

主なルール

ここまでで、サッカーの基本はマスターしていただけたと思います。

それでは続けて、プレー中におこるさまざまなことについて解説していきます。

ボールが外に出てしまったら

ボールを最後に触って外に出してしまったチームは、ボールを失います。そして、ボールを最後に触らなかったチームがプレーを再開します。プレーを再開する選手を誰にするかは自由です。

 

プレーの再開のしかたは、ボールがどこから出たか(=どのラインを割ったか)によって、次の3種類あります。

  • 味方側のゴールラインを割ったとき…ゴールキック
  • タッチラインを割ったとき…スローイン
  • 相手側のゴールラインを割ったとき…コーナーキック

 

ゴールキック、スローイン、コーナーキックは、それぞれ下図の丸印のところからプレーを再開します。

ゴールキック

ゴールキックは誰が蹴ってもいいのですが、ゴール付近からの再開なのでふつうはゴールキーパーが蹴ってプレーを再開します。近くに蹴っても遠くに蹴ってもかまいません。

スローイン

スローインは、ボールがタッチラインを割ったその場所から再開します。この3つのうち、スローインだけは両手でボールを投げ入れます(足で蹴りません)。スローインは、サッカーの試合中でフィールドプレーヤー(ゴールキーパー以外)が手でボールを扱っていい唯一のタイミングです。

<一言コラム> ハンドスプリングスローというスローインの方法があります。飛距離を出すために、ボールを持ちながら器械体操のハンドスプリング(前方転回)をしてから投げるという見た目に愉快なスローインです。2012年、アイスランド代表のソルステインソン選手が日本代表戦で何度も披露し、会場の日本人サポーターたちはアイスランドチームのスローインの度に大盛り上がりでした。

コーナーキック

コーナーキックは、ボールがゴールラインを割った場所から近い方の隅っこからボールを蹴り入れて再開します。コーナーキックは、相手ゴールの近くからプレーを再開するので、ちょっとしたチャンスとなります。ちなみに、コーナーキックから得点が入る確率は、2%くらいだそうです。

 

コーナーキックの蹴り方には、大きく分けて2種類あります。ショートコーナーとロングコーナーです。その名の通り、ショートコーナーは近くの味方選手にパスをします。ロングコーナーは、ゴール正面付近にいる味方選手目掛けて大きくボールを蹴ります。

ロングコーナーの方が得点率が高いようで、割合的には圧倒的にロングコーナーの方が多いです(9割以上?)。ただ、日本人は背が低く、ロングコーナーでは相手選手に当たってしまうことが多いため、日本代表は他国の代表チームより若干ショートコーナーの使用率が高いです。

 

  • ボールがタッチラインやゴールラインを「割る」とは、ボールの一部ではなく、ボール全体がラインの外に出ることを言います。

 

ファウル(反則行為)

試合中、やってはいけないとされている反則行為がいくつかあります。反則行為はサッカー競技規則第12条に詳しく規定されています。ざっくり大事なところだけ紹介すると、以下の行為をすると反則とみなされてしまいます。

  • 相手選手に足をひっかけて妨害する。
  • 相手選手の肩以外に向かって肩でチャージ(後述)する。
  • 相手選手を手や腕で押す、上から抑える、引っ張る。
  • 腕や手でボールを触る(ハンド)。

ファウル(反則)と見なされると、ファウルがあった地点からのフリーキック、またはPKによる再開となります。

少し具体的に説明していきましょう。

スライディングタックル

ボールを持っている相手選手にむかってスライディングをして、そのボールを取りに行く行為はOKです。

ただしその際、ボールに触れずに相手選手の足だけを引っかけて倒してしまった場合、ファウルを取られてしまいます。

したがってスライディングをする場合は、必ず相手選手の足ではなく、ボール目掛けて足を出す必要があります。

 

チャージ

※この画像はチャージはしていません。

ふだん聞きなれない言葉だと思いますが、「チャージ」とは、相手選手に対してぶつかっていくことです。基本的に、「肩から肩へのチャージ」は、サッカーではOKです。

しかし、相手選手の背中にチャージしたり、チャージの力が過剰に強かったりすると、ファウルを取られることがあります。

最終的にファウルかどうか判断するのは主審です。ファウルかどうかの判断は、なかなか難しいものがあります。とりあえずは、相手選手が吹き飛んでしまうほどの強すぎるチャージや、危険なチャージはファウルと思っておけば大丈夫です。

 

ハンド

肩より先(腕・肘・手)でボールを扱うと、「ハンド」という反則行為になってしまいます。

それでは、故意ではない場合はどうでしょう?相手選手がシュートを打ったときに、たまたま自分が腕を広げていて、たまたまボールが自分の腕に当たってしまった場合はハンドになるでしょうか?

正解は、YESです。

胴体から離れた腕にボールが当たった場合、それがわざとではなくても、ハンドと見なされてしまいます。もし腕が体にぴったりくっついていれば、その腕にたまたまボールが当たってしまっても、それはハンドとは見なされません。

なので、相手のシュートには、しっかりと腕をしまって対応することが大事です。

 

<一言コラム> 史上最高のサッカー選手マラドーナは、手でボールを押し込んでゴールしたことがあります。当然ハンドになるはずなのですが、審判はこれをヘディング(頭でのゴール)と判定。そのまま得点が認められてしまいました。マラドーナは試合後のインタビューで、「ただ神の手が触れた」と表現しました。今でもこのゴールは「神の手ゴール」として非常に有名です。

 

 

  • アドバンテージ…ファウルを犯されたチームがボールを失わず、引き続き有利な状況にある場合、主審の判断によりプレーを続行することがある。これを「アドバンテージをとる」と言う。

 

PK(ペナルティ・キック)

ここまで紹介してきたようなファウル(反則行為)を、ゴール前の白い長方形の範囲内(=ペナルティエリア内。上図の赤枠部分)で行ってしまった場合、相手にPKが与えられます。

 

PKは、ゴールまで11mの地点にボールを置いて、キッカーとゴールキーパーが1対1で行います。キッカーは誰でもかまいません。キーパーでもできます。

PKではこの距離からボールを蹴る。キーパーが弾いたボールを押し込んでもゴールになるので、両チームの選手が後ろで待ち構えている。

(Photo by Björn Láczay – Flickr)

この距離でシュートを止めるのはかなり難しく、PKの成功率(PKで得点を決める確率)は約80%と言われています。ボールを見てからでは間に合わないので、ふつうキーパーはキッカーが蹴る方向を予測して、左右どちらかにジャンプします。

サッカーの試合はなかなか点が入らないので、PK1つは試合の中で非常に大きなインパクトがあります。

 

<一言コラム> PKの名手といえば、元日本代表の遠藤保仁選手。多くの選手がPKでは強くボールを蹴るのに対して、遠藤選手は「コロコロPK」。ゴールキーパーの動きを見極めて、ゴールキーパーが飛ぶ方向の逆向きにコロコロ(ゆっくり)のPKを決めてしまいます。観察力が鋭くサッカーIQの高い遠藤選手ならではの技です。

カードと退場

イエローカードとレッドカード

日常生活でも、「イエローカード」「レッドカード」などと言うことがありますので、言葉に馴染みはあるのではないかと思います。

ファウルの中でも重いファウルにはイエローカード。とても重いファウルにはレッドカードが主審から提示されます。軽いファウルの場合、カードは出されません。

レッドカードが出されたら、その選手は一発退場。その試合には、もう出られません。イエローカードが出されても、すぐには何も起こりません。同じ試合中に2枚のイエローカードをもらってしまうと、レッドカードを出されたのと同じで、退場処分になってしまいます。

 

イエローカードやレッドカードの基準となる「重いファウル」とは、以下のようなファウルを指します。

  • 危険である。(怪我のリスク)
  • 相手の得点チャンスを阻止する。

「危険である」ファウルの例は、たとえば足の裏を相手の方に向けたタックルです。サッカー選手はスパイクというトゲトゲの靴を履いて試合をしておりますので、足の裏でタックルすると大変危険です。

「得点チャンスを阻止」の例は、たとえば相手選手がボールを持って独走して、自陣ゴールに向かって突っ走っているときに、後ろから服を引っ張って止めようとする行為です。得点チャンスを阻止するとイエローカードが出ますが、それでも「得点されるよりはマシだから」と、わざとファウルをすることも多いです。

 

<一言コラム> スコットランドリーグでは2017年、とある試合で副審が試合中に気持ち悪くなってしまい、フィールドの隅っこで嘔吐。たまらず主審が副審に対して、あろうことかレッドカードを提示するという衝撃の事件がありました。一連の事件に対して、観客は大盛り上がりだったとのことです。

 

退場と出場停止

選手が退場になってしまうと、そのチームは1人少ない人数で試合を続けます。退場者分の人数をベンチから補充することはできません。したがって、退場者が出てしまうと不利になってしまいチームに迷惑をかけるので、選手はなるべく退場を避けるようにします。

また、大会によって異なりますが、レッドカードやイエローカード2枚で退場処分をくらった選手は、同じ大会の次の試合も出場停止となるのが一般的です。

なお、Jリーグでは1試合でおよそ1~4枚のイエローカードが出されます。レッドカードは数試合に1枚しか出ません。

 

累積警告

ワールドカップやJリーグなど、何試合も続くような大会には「累積警告」という考え方があります。大会によって枚数の基準は異なりますが、大会を通じて同じ選手がイエローカードを何枚かもらってしまった場合、次の何試合か出場停止になってしまいます。

たとえばワールドカップでは、大会を通じて2枚のイエローカードをもらった選手は、次の1試合は出場停止となってしまいます。

 

オフサイド

「分かりにくい」といわれることの多いルールが、オフサイドです。

オフサイドは攻撃側の反則行為で、オフサイドになってしまうとそこで攻撃が無効になり、相手ボールでのプレー再開となってしまいます。たとえゴールを決めても、最後のパスがオフサイドの判定であれば、ゴールは無効になってしまいます。

上の図は、赤チームが攻撃をしているところです。A選手がボールを持っていて、味方のB選手にパスをしようとしています。

ここで、B選手のポジションに注目してみましょう。B選手は、黄色チームの中で二番目にゴールに近い選手(C選手)※よりも前にいます。

このとき、B選手は「オフサイドポジションにいる」という言い方をします。パスが出された瞬間にオフサイドポジションにいる選手は、パスを受けてはいけません。パスを受けた場合、オフサイドという反則になってしまい、相手ボールになってしまいます。(パスを受けなくても、オフサイドポジションにいる選手が相手選手の行く手を阻んだりしただけでもオフサイドになります)

またこのときのC選手の位置を「オフサイドライン」といいます。オフサイドラインより前をオフサイドポジションと呼びます。

パスが出された瞬間にオフサイドポジションにいなければ、パスが届くまでの間にオフサイドポジションに入ってパスを受けてもかまいません。

※ふつうはゴールキーパーが一番後ろにいるので、フィールドプレーヤーの中で一番後ろにいる選手の位置がオフサイドラインになります。

 

オフサイドトラップ

守備側は、あえて相手選手がパスを出す瞬間に前に出ることで、相手選手がオフサイドになるように仕向けることができます。これを「オフサイドの罠(トラップ)に仕掛ける」という意味で、「オフサイドトラップ」と言います。

オフサイドトラップが成功すると、攻撃を無効にすることができる(たとえゴールを決められていても得点にならない)ので、プロの試合では積極的に行われています。

選手のポジション・役割

DF、MF、FW

選手の配置は自由であるが、日本代表はこの陣形をとることが比較的多い。この陣形はDF4人、MFが後ろ2人・前3人、FWが1人となるので、「4-2-3-1」と呼ばれる。

サッカー選手のポジションは、大きく分けて4つに分けられます。

  • フォワード(FW)…攻撃的役割。
  • ミッドフィールダー(MF)…攻撃と守備のつなぎ役。DFに近い側のMFを「守備的MF」、FWに近い側のMFを「攻撃的MF」と呼ぶことがある。
  • ディフェンス(DF)…守備的役割。
  • ゴールキーパー(GK)…ゴールを守る役割。ペナルティエリア内では、両手でボールを扱うことが許されている。

ボランチ、サイドバックなど

ポジションをより細かく以下のように呼ぶこともあります。

  • センターバック…守備の要。背が高く空中戦に強いことや、身体が強く相手選手に当たり負けないこと、ロングパスが上手いことなどが求められる。日本代表では吉田麻也選手など。
  • サイドバック…守備や攻撃に走り回るので、足が速くスタミナもあることが求められる。また、攻撃参加時はクロスを上げる(ゴール付近でサイドから真ん中にパスを出す)ことが多いため、クロスの精度も求められる。日本代表では長友佑都、酒井宏樹、内田篤人選手など。
  • ボランチ…守備時は相手の攻撃を遅らせたりボールを奪ったりする。攻撃時は攻撃の組み立ての起点となる。守備力があり、戦術眼に優れることが求められる。日本代表では遠藤保仁、長谷部誠、柴崎岳選手など。
  • トップ下…攻撃を操る指揮者のような存在。パス・シュート・ドリブルといった攻撃能力にくわえ、戦術眼やチームをまとめる能力も求められる。日本代表では香川真司、本田圭佑選手など。
  • 右サイド・左サイド…攻撃的選手の中でも、ドリブルが上手く、相手選手を抜けることが求められる。日本代表では原口元気選手、久保裕也、宇佐美貴史選手など。
  • トップ…相手選手との競り合いに勝って味方にボールを散らすこと(ポストプレー)や、シュートを打って得点を決めることが求められる。トップが一人のときはワントップ、二人のときはツートップと呼ばれる。日本代表では岡崎慎司、大迫勇也選手など。

一般的にサイドの選手は足が速いこと、真ん中の選手は相手に当たり負けないことが求められます。

他に、チームの陣形や戦術によっては「アンカー」「センターハーフ」「サイドハーフ」「ウィング」と呼ばれるポジションができることもあります。

 

<一言コラム> 田中マルクス闘莉王という選手を知っていますか。2010年南アフリカワールドカップで大活躍したセンターバックの選手です。彼は基本的にはディフェンスの選手なのですが、攻撃センスも抜群。2017年は36歳にしてフォワードに転向し、J2リーグでなんと年間15得点(チーム最多得点)の大活躍をしました。

サッカー用語集

サッカー観戦時によく聞く言葉(サッカー解説者がよく口にする言葉)をまとめてみました。

  • アシスト…ゴールの一つ前のラストパスのこと。アシスト数は、ゴール数と並んで攻撃選手の代表的な評価基準の一つ。
  • アタッキングサード…フィールドを3分割したときに、相手ゴールに近い3分の1のエリアのこと。
  • インターセプト…相手のパス、ドリブル中にボールを奪うこと。
  • オウンゴール…自分側のゴールにボールを入れてしまうこと。キーパーにボールを戻そうとして、キーパーが取れなかったときなどに起こる。
  • オーバーラップ…ボールを持っている味方選手を走って追い越すこと。前でパスを受けるという狙いがある。主にサイドバックの選手がサイドの選手を追い越すときに、「オーバーラップ」と呼ばれる。
  • オフ・ザ・ボール…ボールを持っていないときのこと。サッカー選手は、ボールを持っているとき(ドリブルなど)のプレーも大事だが、ボールを持っていないときのポジショニングもとても重要な要素。「オフ・ザ・ボールの動きが上手い選手」というふうに使う。
  • カウンター…ボールを奪ってすぐ攻撃に転じること。攻撃中は全選手が前寄りになるので、カウンターを受けるとピンチになりやすい。
  • クリア…相手の攻撃を寸断する目的で、ボールを大きく前に蹴りだすこと。
  • クロス・センタリング…相手ゴール付近で、攻撃のためにサイドから真ん中に向けてボールをパスすること。
  • 個の力…選手一人ひとりの個人能力のこと。ドリブルだけではなく、パスや戦術眼などを含めた総合的な能力を指す。
  • 司令塔…主にトップ下の選手で、攻撃のまとめ役のこと。
  • 数的有利…ボールの近くにいる選手の数が、味方チームの方が多い状況。2対1などの数的有利を作ることができると、とても有利になる。
  • セットプレー…コーナーキック、フリーキック、PKのこと。ボールをセットしてからプレーするため。
  • トラップ…自分に向かってきたボールを、足や胸で受け止めて適切な位置に置き、次のプレー(ドリブルやパス)につなげること。ロングパスをピタリと足元に止め落としたり、トラップの流れで相手を抜き去ったりできる選手は「トラップがうまい」と言われる。
  • パワープレー…前線に多くの選手を配置して、ロングパス主体で攻めること。
  • フィジカル…相手選手とぶつかるときの身体の強さのこと。
  • ポストプレー…相手選手との競り合いに勝って味方にボールを散らすこと。攻撃の起点となる動き。
  • ワンタッチプレー…味方からのパスをトラップせずに、そのまま(ワンタッチで)シュートまたはパスをすること。
  • ダイレクトプレー…ワンタッチプレーと同じ。

おわりに

「100回のテレビより、1回の生」という言葉もあります。ぜひ一度サッカー場に足を運んで、生のサッカーを楽しんでみましょう。どっぷりとハマってしまうかもしれません。

西村賢太『苦役列車』の感想―東大文学部卒によるレビュー

気になっていた144回芥川賞受賞作、西村賢太の『苦役列車』を読了した。一言で言えば「劣等感の文学的昇華」と呼ぶべき作品であった。

ネタバレなしのあらすじについてはAmazonのページを参照いただくとして、ここでは本作をすでに読まれた方向けの、ネタバレ含む書評を記していくのでご注意いただきたい。

あらすじ(ネタバレあり)

主人公の北町貫多が11歳のとき、彼の父親は性犯罪を犯す。11歳にして性犯罪者の息子のレッテルを貼られた彼は、社会に受け入れられる可能性を失う。15歳から親元を離れ一人暮らしをし、日給五千五百円の日雇い仕事を始める。

日給はすべて食と酒と風俗に費やし、家賃も払えずに居所を転々とする日々。

18歳の夏のある日、貫多は日雇いの現場に向かうバスの車中で日下部正二という同い年の男性と出会う。爽やかな好青年である。貫多から見れば日下部は「普通に恵まれている人間」であり、まっとうな社会の人間である。対比的に提示された「劣等者」貫多と「優等生」日下部との微妙な交流を通じ、貫多の劣等感の内実が克明に描かれていく。

作中において、貫多と日下部の友情関係は、上に凸の二次曲線のように推移する。自らの境遇をコンプレックスとする貫多には自然と友人が少なく、人と距離を詰めるのがうまくない。そこに現れた日下部は、爽やかに人の懐に入り込む。

貫多はたびたび日下部を酒・風俗に誘い、二人は交友を深めていく。しかし、そこはやはり元々の出自が違う二人。日下部は貫多の下劣な趣味に辟易したのか、次第に距離を取るようになる。

貫多は日下部との距離が遠ざかるにつれ、自らの惨めな境遇と、劣後者である自分へのコンプレックスをあらためて思い知る。貫多は自らの人生を、苦役に満ちた一本の線路にたとえ、そしてその線路上をひた走る自らを『苦役列車』にたとえる。

数年の後、日下部が郵便局員になったことを知った貫多は、これを大したことのない仕事と嘲るが、当の貫多はいまだに日雇いの人足なのである。

感想

日本文学でいえば夏目漱石や川端康成といった正統派の純文学が好みの私である。読む前は「本作はイロモノなのでは」と思っていたが、意外にも気持ちよく読めた。

ご存知のとおり、西村賢太氏は私小説作家であり、苦役列車も彼の実体験に基づいて書かれた小説。1割の話を面白くする”盛り”を除けば、9割は実話であるとのこと。

中卒・性犯罪者の息子という経歴も、西村賢太氏自身の経歴どおりである。それゆえむせかえるほど生々しく、説得力のある作品となっている。また、文章は力強く、流れが良い。

 

ちなみに、北町貫多という名前はあきらかに西村賢太をもじったものである。西を北に、村を町に変換したあたりはどうでもいいポイントだが、賢を貫に変えたところには、少し作者の意図が汲み取れる。つまり北町貫多という人物は、「賢」く生きる(=うまく立ち回る)人物ではなく、不器用な生き方を「貫」く人物として描かれているのである。

 

ストーリーは淡々と進み、意外性はほとんどない。それでも、この奇妙な小説が私小説であり、その主人公が中卒・性犯罪者の息子であるということから、やはり読者は興味を失うことなく結末までページを繰ってしまう。そこにはもちろん、西村賢太氏のリズムの良い文章力も引力としてしっかりと働いている。

今回私がこの小説を「劣等感の文学的昇華」とまとめたのは、はじめにガツンと提示された黒く重い塊のような劣等感が、西村賢太氏独特の語り口、つまり前向きの裏返しとしての鬱屈のような態度によって、どこか爽快な感じを伴いながら気体的に霧散していくからである。

 

北町貫多は、11歳にして父親が性犯罪者という惨めなスタート地点に立たされたわけではあるが、『苦役列車』においての北町貫多は全肯定的に「かわいそうな人物」として描かれているわけではない。

むしろ、北町貫多自身の人間性についても「社会の落伍者」または「クズ」としての要素が明確に、かつ繰り返し描きこまれている。たとえば、家賃を踏み倒してもアパートに住み続けることを当然の権利とでも思っているような態度。日下部の目の前で日下部の彼女を犯すことを夢想する場面。同僚への暴力。

このように北町貫多が歩む人生は、表面的に見れば、決して「不幸な境遇におかれたかわいそうな人」ではなく、むしろ「自業自得により自滅していく落伍者」である。しかしこの「業」の部分を客観的に見つめていったときに、ぼうっと北町貫多の純粋性が浮かび上がってくる。読者はこの作品で描かれる北町貫多に一次的には共感しにくいものの、不器用な自分に苦しむという点が抽出されてきて、それゆえに業から逃れられないのであるという像を見せられたときに、はたと共感してしまうのである。

 

そしてわれわれ読み手は、この私小説の主人公の北町貫多(=西村賢太)が、後に野間文芸新人賞や芥川賞を受賞し、人気作家になっていくということを、小説の外の世界の知識として知っている。

この事実があるから、われわれはこの救いようのない苦しさ・虚しさに終わっていく小説を読みながらも、その苦しみが深ければ深いほど、えもいわれぬ痛快な爽快感をおぼえるのである。

 

さて、この作品を評価しない、面白くないという人もいる。第144回芥川賞を受賞した本作であるが、選評の中には辛口のコメントもいくつかある。その批評文を引用してみよう。

高樹のぶ子:

「人間の卑しさ浅ましさをとことん自虐的に、私小説風に描き、読者を辟易させることに成功している。これほどまでに呪詛的な愚行のエネルギーを溜めた人間であれば、自傷か他傷か、神か悪魔の発見か、何か起きそうなものだと期待したけれど、卑しさと浅ましさがひたすら連続するだけで、物足りなかった。」

村上龍:

「相応の高い技術で書かれていて、洗練されているが、「伝えたいこと」が曖昧であり、非常に悪く言えば、「陳腐」である」

「物足りない」「陳腐である」と、小説、特に純文学的な小説に対する評価としてはなかなか辛(から)い言葉が使われている。

これら否定的なコメントもまた、的を射ていると思う。苦役列車という作品は読者を引き込む魅力が十分にある作品ではあるが、それ以上の深みが無いといえば無い。「中卒・性犯罪者の息子」という逆説的な”魅力”(あるいは商品価値)と、リズムの良い文章力という武器を持っているものの、そこから先に一歩進んだ「哲学的考察」「人間性の真理」であったり、「意外性」といったところで、もう少し踏み込んでくるものがあってもいいのではないかと思う。

『苦役列車』の意味

これは蛇足だが、一応本作のタイトル『苦役列車』の意味を改めて説明しておこう。

116ページの2行目~5行目にはっきりと書かれている。

そして更には、かかえているだけで厄介極まりない、自身の並外れた劣等感より生じ来たるところの、浅ましい妬みやそねみに絶えず自我を侵蝕されながら、この先の道行きを終点まで走ってゆくことを思えば、貫多はこの世がひどく味気なくって息苦しい、一個の苦役の従事にも等しく感じられてならなかった。

上でも述べたとおり、貫多は自らの置かれた惨めな境遇と、そこから抜け出せずに社会の落伍者であり続ける自らの人生を、苦役に満ちた一本の線路にたとえ、そしてその線路上を走り続ける自らを『苦役列車』にたとえているのである。

辞書で調べてみると、苦役の意味は以下のように出ている。

1. 苦しい肉体労働。
2. 懲役など、苦役⑴を伴う懲罰。

ぴったりの言葉ではないだろうか。『苦役列車』という言葉によって、西村賢太氏は、延々と続く日雇いの苦しい肉体労働だけが与えられた人生を、超越的(神的)な存在によって課された「懲罰」に見立てているわけである。

そしてその懲罰が救いのないものに感じられるほどに、われわれは西村賢太氏の現在の活躍を思い出し、半沢直樹の倍返しにも似た爽快感をおぼえるのである。

評価

ストーリー ☆☆☆☆

読みやすさ ☆☆☆☆

哲学的観察 ☆☆

芸術性   ☆☆

総評    ☆☆☆☆

 

PFP最強?井上尚弥の強さの理由と、過去の戦績を振り返る。

2018年10月現在、プロ17戦17勝15KOとほぼ完ぺきの戦績を収めている井上尚弥。2018年10月7日のバンタム級最強王者を決めるトーナメントWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)の初戦で、フアン・カルロス・パヤノに対して1R1分での圧倒的なKO勝利をおさめた。次戦は2019年春、海外でエマヌエル・ロドリゲスとWBSS準決勝(かつ世界バンタム級王座統一戦)を戦うことが予定されている。

しかし、こうした実績もさることながら、本当の意味で井上尚弥を井上尚弥たらしめ、その評価を確固たるものとしているのは、その実力であり、試合内容である。また、強気なのに謙虚であるというその人間性、そして「強い相手としか戦わない」という潔い宣言である。

今回の記事では、ボクシングの神に愛された、日本史上最高の才能と名高い(イケメン)ボクサー井上尚弥の強さと実績を振り返る。

 

強さの理由

パンチ力

ガード無視の破壊力

やはり井上尚弥といえば、圧倒的なパンチ力。「ダウン経験が無い」「KO負けが無い」という選手たちをあっさりとマットに沈めてきた剛腕が一番の特徴といえる。スパーリングではフェザー級(井上のスーパーフライの3階級上)で世界ランク1位の選手を圧倒、また別のフェザー級選手の右腕を骨折させてしまったこともあるほど。

その圧倒的なパンチ力で、ガードの上からでも相手選手をばたばたとなぎ倒してきた。

ガードの上から倒した良い試合例は、8戦目のオマール・ナルバエス戦1R開始30秒でダウンを奪った右ストレートと、9戦目のワルリト・パレナス戦2Rの左右のフックの連打。

ボディでKO

特に右拳を傷めてからの井上尚弥は、左ボディでの悶絶KOが多い。

ボディでのダウンやKOの良い例は、8戦目オマール・ナルバエス戦2RのKOパンチと、14戦目ニエベス戦5Rにダウンを奪った左ボディ、そして15戦目ボワイヨ戦3Rの左ボディ連打。

左

井上尚弥は右はもちろん、左のパンチが規格外に強い(腕相撲では右手より左手の方が強いらしい)。それゆえ左ジャブ、左フック、左ボディの威力が半端ではない。相手選手に「左ジャブが右ストレートのようだった」と言われたこともある。ここにガードの上からでも倒せてしまう右ストレートがあるので、相手としては厄介極まりない。

スピード

パンチのスピードが桁違いで、ナルバエスやパレナスといった選手が、「パンチが速すぎて見えなかった」というコメントを試合後に残している。

パンチの精度

ボディでKOを量産しているのは、パンチ力が強いのももちろんのこと、的確に効く場所に打ち込んでいるから。上記ボディでのダウン・KOシーン(ナルバエス戦、ニエベス戦、ボワイヨ戦)を見比べてみると、全て全く同じ場所に左ボディを打ち込んでいることが分かる。

またカウンターも上手く、12戦目の河野公平戦の6RのKO前にダウンを奪った左フック、15戦目のボワイヨ戦1Rにダウンを奪った左フックなどは圧巻。他にも、井上のパンチが速すぎてカウンターに見えないが、相手の動き出しに合わせて出すパンチをよく当てている。

ヒット率

井上尚弥はジャブを当てるのが非常にうまく、1ラウンドに平均9発のジャブを当てている。これは全ボクサー中で2番目の数字(1位はゴロフキンの10.4発)である。また、ボクシングの情報収集サイトCompuBoxの集計対象全ボクサーの平均4.7発の約2倍の数字である。

手数

井上尚弥は1ラウンド平均36発のジャブを放っており、これは全ボクサー中で1位の数字である。

ディフェンス

井上選手はガチでパンチを一発ももらわない。フットワークと上体の使い方が非常にうまい。また、パンチを打ってすぐに下がるという基本が体に染みついているので、とにかくパンチが顔に当たるのを見たことが無い。

試合終了後の腫れあがった相手の顔と、綺麗な井上選手の顔を見比べるだけでも、そのディフェンス技術の高さが窺える。

被弾率

井上尚弥のパンチ被弾率は全ボクサー中9位の21.2%。これはワシル・ロマチェンコ(同1位)の16.5%やギジェルモ・リゴンドー(同2位)の17.1%には劣るが、集計対象ボクサー平均の30.3%より遥かに良い数字だ。

距離感

距離感を掴むのが早く、これが攻防両面で活きている。

たとえば、バンタム級転向初戦でWBA王者獲得に成功したマクドネル戦では、1R30秒で相手の左ジャブの角度・スピード・距離を見切り、対応できると判断して一気にラッシュをかけて1R112秒でTKO勝ちしてしまった。

また、田中恒成選手とのインタビュー記事で、本人が距離感について語ったのが以下。このインタビュー記事は全体的に内容が素晴らしいので、ぜひ読んでみてほしい。

恒成 「1分半で距離をつかむ」ってどこかで読んだことがあるんですけど。距離感をつかんだとかわかったってことがあるんですか? オレもう、距離感のことが一切わからなくて……。
尚弥 あるよ。ジャブが当たった瞬間わかる。
恒成 ちょっと曲がっとったら、そこを修正するとか。
尚弥 いや、もう最初の1発でしっかり伸ばしきったジャブを当てるのね。初見の相手だったら、まずここで(と両手で目の前の空間を囲う)相手にパンチを出させて、まず確認する動作から始めて。それが終わったら、自分のジャブを当てる。そのジャブが当たったら──
恒成 ここの空間で、これ以上入らずこれ以上離れず、くらいで。
尚弥 そうそう。あとは、ガーッとくっついて、相手のパンチ力を確認して。それがだいたい1ラウンドでわかるかなって。

人間性

プロとして長く活躍するためには一番大事な要素かもしれない。マイク・タイソンを筆頭に、数々の輝かしい才能が、人間性の僅かな不和により堕落していった。

井上尚弥はこの点でも申し分なく、強気で自信満々でありながら、素直で謙虚に自らの才能を磨き続けている。

プロデビュー前

井上尚弥はアマチュア時代にも高校生にして全日本選手権を制するなどの活躍をしていた。しかしそれよりも印象的なのは、19歳の井上尚弥が、大橋ジムの先輩で現役世界王者の八重樫東をスパーリングで圧倒してしまっていたという話。

プロ3戦目で日本ランク1位を圧倒!“怪物”井上尚弥は何が凄いのか? – ボクシング – Number Web – ナンバー

「井上とは昨年、井岡一翔選手と試合をする前に何度もスパーリングをしましたが、とにかく強い。やられてしまう場面が何度もありました」

プロデビュー前の19歳が世界チャンピオンをたじろがせてしまう。大橋秀行会長が「八重樫が井上とスパーリングするときは、井上じゃなくて八重樫に作戦を与える」と言ったときは冗談かと思ったが、八重樫の話を聞くと真実味を帯びる。

八重樫東とはジムが同じなので、デビュー後もたびたびスパーリングを行っているようだが、井上が圧倒したというニュースしか見ない。たとえばこちら。

アマ7冠井上、八重樫に“判定勝ち” – ボクシングニュース : nikkansports.com

大橋会長は「採点するなら八重樫が負けている。井上はデビュー戦が終わってからすごく伸びている」と、興奮を隠しきれない様子だ。

体がまだまだ成長する19歳の時点で既に現役世界チャンピオンと対等以上に渡り合っていたというのだからすさまじい。

ライトフライ級時代

減量苦

井上はライトフライ級でプロデビューしたが、この階級は適正とはいえず、減量に苦しみ続けた。プロデビュー時から異常なほどの注目を集めてはいたものの、3戦目・4戦目はともに10Rまでもつれるなど、期待される実力に見合った圧勝劇を披露できていなかった。

世界最速6戦目の世界王者奪取

それでも確実に勝利を積み重ね、2014年WBC世界ライトフライ級王者アドリアン・エルナンデスに勝利。当時日本人男子最速の6戦目でWBC世界ライトフライ級王者となる。

6戦という圧倒的なスピードで世界王者となった井上だが、正直、ライトフライ級で戦っていた頃の井上は「なんか物足りないなあ」という印象だった。それくらい期待度が高かったということでもある。当時は井上尚弥がそれほどの圧倒劇を見せられない理由が減量苦だとはっきりとは分からなかったから、「こんなものか」と納得してしまっていた。しかし、スーパーフライ級転向後の井上は全くの別人となっていた。

スーパーフライ級時代

ライトフライ級で1度だけ世界タイトルを防衛した後、減量苦を理由に2階級一気に上げて、スーパーフライ級に参戦した。

8戦目(タイトルマッチ):オマール・ナルバエス戦

そのスーパーフライ級の初戦で名王者オマール・ナルバエスと戦うのだが、この試合で井上尚弥はとんでもない才能を世界に見せつけた。

戦前の予想はこんな感じ:

それがこうなる:

47戦でダウン経験が一度もない伝説の名王者を、たった2Rの間に4回ダウンさせたのだ。しかも、これというクリーンヒットは最後の左ボディブローだけ。それまでのダウンはすべてガードの上から、または頭をかすめるだけのパンチだった。この一戦により井上尚弥の評価は急上昇、世界のボクシングシーンにその名が知れ渡ることになった。

井上尚弥 – Wikipedia

フライ級世界王座を16連続防衛、WBO世界スーパーフライ級王座を11連続防衛中の現役世界最強と評価されていたナルバエスを一方的に打ちのめしてKO勝ちで2階級制覇を達成

マニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザー・ジュニア、ゲンナジー・ゴロフキンといった世界の超スーパースター達を抑えて井上尚弥が、ボクシング・シーン・ドットコム、セコンド・アウト・ドットコム、ファイトニュース・ドットコムといった世界的な大手ボクシング専門ニュースサイトからも2014年の年間MVPに日本人史上初めて選出された。

Superfight in the lower weight classes entirely possible

トップチャンプオンのこれほどの崩壊は、トミー・ハーンズがロベルト・デュランを打ちのめして以来だ。ナルバエスは39歳だが、今までの唯一の負けは12R判定となったノニト・ドネア戦だけだ。井上はこの試合のために2階級上げてきた上に、これはまだ8試合目でしかない。

ただ、自らのあまりの強打に右手を傷めてしまい、井上尚弥はこの試合から丸1年のブランクをとった。残念ながら井上は、この試合あたりから右拳を傷めることが多くなってしまっている。

9戦目(WBO防衛1):ワルリト・パレナス戦

スーパーフライ級第2戦目の相手はワルリト・パレナス。この2戦目でも、同じようにガードの上から左右のフックで2R1分20秒であっさりと相手を打ちのめした。

丸腰の人間(パレナス)が恐竜(井上)に挑んでいるようで、見ていて怖いくらいだった。

速すぎて見えない上に、ガードしても倒されるパンチを持っている相手をどうやって攻略できるというのだろうか…。井上尚弥は確実に無敵の最強王者への道を突き進んでいる。

10戦目(WBO防衛2):ダビド・カルモナ戦

戦前の予想は井上の超有利。

井上尚弥の世界戦勝利オッズ「1・02倍」強すぎる世界王者にブックメーカー悲鳴

1.02倍という壊れたオッズにも注目が集まった。ちなみにカルモナ勝利の倍率は17倍だった。この試合の焦点はカルモナが何秒立っていられるか、何発パンチを耐えられるかというところにあった。

その結果は:

判定までもつれこんでしまった。ナルバエス戦で傷めた右手をまた傷め、実力は大きく下のダビド・カルモナを倒すことができなかった。しかし、井上尚弥の強さは見える試合だった。中盤からはほとんど左手しか使わずに戦ったが、内容的には制圧していた。それゆえ、距離の取り方や試合の組み立て方といった別の部分の強さがよく見えた。

パンチ力が強すぎて、自らのパンチ力で自らの拳を傷めるという唯一の課題がますます浮彫となる試合だった。

11戦目(WBO防衛3):ペッチバンボーン戦

スーパーフライ級4戦目。井上にとってははっきり格下で、「ペッチ」と呼ぶ相手。ここは通過点。全階級通じて世界最強の一人と目されるローマン・ゴンザレス戦が近いと見られる中、どれだけの圧勝劇を見せられるかに期待がかかった一戦。

その結果は、10RのKO勝利。KO勝利という最低限の目標は達成したが、10Rまでかかってしまった。

またもや拳と、今度は腰も傷めていつもの強打が出ない井上尚弥だった。強打は出ないながらも、ジャブとフットワークで内容的には制圧していたことは事実。ただ、これは観るものが井上尚弥に求めている試合内容ではない。

爆発的なパワーとスピードを持つアスリートはどうしても怪我が多くなってしまうもの。しかしこの試合以降、この課題を意識し始めたのか、練習や試合において、なるべく怪我をしないことを意識するようになってきたように見える。

12戦目(WBO防衛4):河野公平戦

スーパーフライ級5戦目は、井上尚弥が世界王者になってから初めての日本人ボクサーとのタイトルマッチ。河野公平も世界王者の経験のある選手だが、井上尚弥と戦うにあたっては「エリート vs. 雑草」とも言われた。

戦前の評価では、井上尚弥の勝利は当たり前。河野公平がボクサー人生の晩年に破壊されてしまうのではないかとの心配の声が多かった。

結果は、6Rに完璧な左フックのカウンターが入り、過去KO負けを喫したことがなかった河野公平がTKO負け。全く危なげのない試合だった。河野公平の逃げずに正面から打ち合う姿は日本男子らしくてかっこよかったが、正直あまりに実力に差があったため、ボクシングの試合としての面白さは微妙。ただただ河野選手の顔が赤く腫れて痛々しかった。

この試合の収穫は、何と言っても毎試合故障していた拳や腰の故障が無くなったこと。井上尚弥はこの試合から、唯一の弱点であった故障癖が無くなった。

ロマゴン判定負け

実は、この河野公平戦から少しして、井上尚弥にとっては衝撃的な大ニュースがボクシング界を駆け巡った。それは現役ボクサーのパウンド・フォー・パウンド(階級無視の最強選手ランキング)1位と名高かったローマン・ゴンザレスの判定負け。相手はシーサケット・ソー・ルンヴィサイ。シーサケットが当時それほど評価の高い選手ではなかったため、このニュースは余計に世間を驚かせた。

…本音を言えば、ロマゴンの階級アップによる戦力の衰えは、冷静なボクシングファンの目には明らかだった。ロマゴンに商品価値があるうちに早く井上と対戦してほしいと、井上ファンはみんな思っていただろう。それでも、ほとんど神聖化されかけていたビッグネームの初の敗戦は世界を驚かせた。

井上尚弥としては、最強王者ロマゴンを倒してその名を世界に轟かせることを目標にずっと頑張ってきていたので、目標の一つを失ってしまう形となった。

13戦目(WBO防衛5):リカルド・ロドリゲス戦

この試合については何も言うことなし。またもやほぼ左手1本だけで相手を制圧。3R開始1分、左フックによるKO勝利。リカルド・ロドリゲス選手が辛そうすぎて、ボクシングの試合というよりは中世の処刑か何かを見ているようだった。

壊しやすい右手をあまり使わないように意識しているように見えた。

14戦目(WBO防衛6):アントニオ・ニエベス戦

井上にとっては記念すべきアメリカデビュー戦。実力者の集まるスーパーフライ級にフォーカスしたSuperflyという興行で、ローマン・ゴンザレス vs. シーサケット・ソー・ルンヴィサイの再戦の前座として行われた。相手は過去ダウン経験が無いものの、それほど強い選手ではなく、井上選手にとってはアメリカのボクシングファンに顔見せするための試合だった。

結果は6R終了TKO勝利。井上選手としては、できるだけ派手にKOしてアメリカで少しでも名を上げたかった試合。それゆえ気持ちが先行しすぎて大振りが多く、6Rまでかかってしまった。しかし、5Rには左ボディでニエベスにとってプロ人生初のダウンを奪ったり、逃げ惑うニエベスに「かかってこい」と挑発するなど、一応の見せ場は作った形となった。

15戦目(WBO防衛7):ヨアン・ボワイヨ戦

中世の処刑2。フランス人のお小遣い稼ぎと、井上尚弥の空き期間の調整がたまたまマッチングしただけのような試合だった。1Rの完璧なカウンターの右フックと、3Rの左ボディによるKOは美しかった。ちなみにこの試合では、強烈なボディを喰らったボワイヨの「うっ」といううめき声がテレビ越しに聞こえてきた。

1つ前のニエベス戦と、このボワイヨ戦で井上尚弥が見せた完璧な左ボディ。井上選手はこれを大きな武器として、今後もボディブローでのKOを量産していくと思われる。

バンタム級時代

16戦目(WBA世界挑戦):ジェイミー・マクドネル戦

井上尚弥にとってのバンタム級初戦であり、世界3階級制覇挑戦となる試合。久々になかなかの強者と対戦することになったので、世界的にも注目度は高く、全米でも生中継された。昔から、「スパーリングではもっと強い」と言われ続けてきた井上選手であるが、バンタム級でついにその力を解放するかどうかという試合。

結果、見事1R112秒でレフェリーストップによるTKO!圧巻の勝利となった。開始30秒でマクドネル選手の左ジャブの角度・スピードを見切り、怖くないと判断して1Rから倒しにかかった。するとすぐに左フックを相手のおでこにカツンとあててぐらつかせ、追撃の左ボディでマクドネルが一度目のダウン。そこからは相手の反撃を気にしない台風のようなラッシュでレフェリーストップに追いやった。

また、故障がちだったのでスーパーフライ級では控えていたと思われた右拳の封印を解き、遠慮なく使っていたので、久々にその実力が存分に発揮された試合となった。

身長差が10センチ以上もあるという点も注目ポイントとされたが、長身選手への対応は問題無かった。マクドネル選手はイギリスの選手なので、近年ボクシング熱が高まっているイギリスのボクシングファンに井上選手を紹介するという意味でも、最高の結果となった。

17戦目(WBSSバンタム級初戦):フアン・カルロス・パヤノ戦

世界中のボクシングファンが注目するWBSSの初戦で、井上尚弥選手は元WBAバンタム級スーパー王者のパヤノ選手と対戦。

わずか1R1分であっさりとKO勝利をおさめてしまった。井上尚弥選手が出したパンチはアッパー1発と、KOを生んだ左右のワンツーで計3発のみ。たった1発のパワーショットで老練のパヤノ選手を沈めてしまった。

 

井上尚弥の将来

WBSSの出場者として

井上尚弥は、2018年10月7日に開幕したWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)のバンタム級最強選手を決めるトーナメントに出場し、初戦でフアン・カルロス・パヤノ選手に勝利している。

WBSSの参加選手は、各団体の王者であるWBAスーパー王者ライアン・バーネット、WBA王者井上尚弥、WBO王者ゾラニ・テテ、IBF王者エマヌエル・ロドリゲスの4人にくわえ、ジェイソン・モロニー、ミーシャ・アロイヤン、ノニト・ドネア、フアン・カルロス・パヤノの4選手の合計8人である。

井上尚弥選手は、次戦は2019年春、海外でエマヌエル・ロドリゲスとWBSS準決勝を戦うことが予定されている。ロドリゲス選手の評価は高く、この試合が事実上の決勝戦であるとされている。

さらに勝てば決勝でバーネット―ドネア戦の勝者対テテの試合の勝ち上がり選手と試合をすることになる。

希望を言えば、準決勝でロドリゲス選手、決勝でドネア選手と戦う流れであれば盛り上がるだろう。しかし、実際にはドネア選手の勝ち上がりは有望視されておらず、決勝はバーネット選手またはテテ選手と戦うことになる可能性が高い。

井上尚弥選手はこのトーナメントを制覇することができれば、3団体統一王者となる。さらに、弟の井上拓真選手が残りのWBCバンタム級王座への挑戦権を持っており、井上拓真選手がWBC王座を獲得すれば、バンタム級全4団体を兄弟で独占することになる。

バンタム級王者として

井上選手はバンタム級で防衛記録を作りたいと話している。父の真吾氏も「バンタム級は尚弥の適正階級」と昔から語っている。バンタム級でWBSSを制覇できれば、その先しばらくは、バンタム級に居座って長期政権を築くのではないだろうか。

先日山中慎介選手のボクサー人生の晩年を汚して大顰蹙を買ったルイス・ネリ選手もバンタム級にはいるが、日本ボクシング界から追放されたネリ選手との試合が実現するかどうかは微妙なところである。もし対戦した暁にはぜひともKO勝利をしてほしい。

PFP最強王者として

現在、PFP(パウンド・フォー・パウンド)で最強と目されているのはワシル・ロマチェンコである。ロマチェンコを知らない人はぜひYoutubeで彼のKO集を見てもらいたい。異次元のスピードとテクニックである。

井上尚弥は2018年9月現在、各種のボクシング専門誌でPFPトップテン(PFP5位~6位)に位置づけられることが多い。彼は現役のうちにPFPトップに君臨することができるだろうか。少なくとも、手を伸ばせば届きそうな位置まで来ていることは間違いない。