東大化学で高得点・満点を狙う効率的勉強法と参考書総まとめ

入試直前期、ぼくは直近10年間の東大理科(物理+化学)過去問で120点満点中平均117点取れていた。割合でいうと9割7分。しかも150分中、80分くらいで解けていた。もちろん二周目ではなくて初見である。したがって国内の同学年では、指折りのレベルで受験理科をマスターしていたといえる自信がある。

そんなぼくも、理科はもともと別に好きでも得意でもなくて、秋の東大模試では物理+化学で120点満点中40点くらいという、東大受験生としてはやや見劣りするくらいの数字だった。この結果には少しだけ焦ったが、センター試験から二次試験までの1ヶ月間の猛勉強で、冒頭のとおり過去問で満点近くとれるレベルまで達した。

この経験をもとに、今回の記事では短期間で東大化学を得点源にする効率的な勉強方法をご紹介する。ただし、決して怪しい裏道ではなく、王道かつ正攻法である。ぼく自身が中高6年間塾には通わず独学で通したので、今回の記事は同じように独学で頑張る人を対象としている。

 

基本の考え方

化学の得意・不得意について

化学は「理解・暗記・計算」がどれもハイレベルで求められる。生物ほど暗記は要らないし、物理ほど計算は要らない。しかし、そのどちらもハイレベルで求められるのが化学だ。

東大レベルの化学で高得点・満点を狙うためには、とにかく難しい問題をしっかりと理解し、「何を覚えていればその問題が解けたのか」を常に自問し、細かい細かい知識を埋めていく作業が必要だ。

しかし後述するとおり、化学については参考書や問題集が非常に充実している。したがって、多くの知識が求められるといっても、臆するには足らない。

理論+無機 vs. 有機

「化学は理論・無機・有機の3分野に分かれる」とよく言われる。「理論」とは物質量molや熱化学方程式に代表される計算分野であり、「無機」とは物質の色や水溶性などの物性(物質の性質)に代表される暗記分野である。「有機」とは、有機物の構造決定を主とする分野のことを指す。

しかし、東大レベルの問題では理論と無機はほとんど融合してしまっている。理論の問題に物性の知識が問われたり、無機の問題にゴリゴリの計算が出たりということはよくあるのだ。一方、有機分野は本当に独立した一分野という印象を与える。

したがって、初めから化学は「理論+無機」と「有機」の2つに分かれる、という理解でいた方が戸惑いが少なくて良いかもしれない。

付箋で覚える

化学については特に、ワンポイントで覚える知識が非常に多い。たとえば

注:このメモを書いた頃は東大の過去問で60点中45点くらいとれていた。高3の夏休み頃でこのメモの内容が分からなくても不安になる必要はない。

これはぼくの受験生時代の(汚い)メモで申し訳ないが、化学を極めようとすればするほど、こういう一文のメモ書き程度の分量で覚えないといけないことが山のようにある。これを全部専用のノートに書き連ねてもいいのだけど、ぼくのオススメはPost-it(特大)を使うこと。

Post-it 長方形 75x127mm

使い方は、

1. 覚えるべきことが出てきたらPost-itに書く。

2. それが出てきた問題集か参考書の表に貼る。

3. 1日経ったらその付箋をノートへ移動する。

4. 定期的に付箋がたまったノートも見直す。

2のステップで問題集か参考書の表に貼ることで、その日のうちに3回くらい自然とその付箋を見ることになるので、自然な反復学習ができる 。 直接ノートに書き込んでしまうよりも、初日の復習回数が自然と多くなるのが良いポイントだ。

問題集の解き方

問題集を解くときには、

1. 1分考えても分からない問題は答えを見ること。

2. 計算問題は極力ノートに書いて解くこと。

3. 分からなかった問題にチェックする。解けたけれど悩んだ問題にもチェックする。チェックが消えるまで2周、3周と解くこと。

この3点を守ってほしい。1.は時間短縮のためと挫折を防ぐため。2.は、分かったと思った問題でもいざ計算を進めてみると思ったとおりに行かずつまずくことが多いため。自分の「分かった」をあまり信用してはいけない。

3を守ると、1周目は7割近い問題にチェックがつくと思われる。だがそれでいい。2周目で25%、3周目で5%以下になっている。2周目3周目は解くペースも上がっているので、「何周も解く」という言葉の印象の割に、そこまで膨大な時間がかかるわけではない。

反復学習をシステム化する

人間の記憶と忘却のメカニズムについての研究が進んでいる。それによると、効果的な復習は、学習から10分後、1日後、1週間後、1ヶ月後…と周期を伸ばしながら繰り返していくことが大事だとされている。そうはいっても、学習したこと全てについて自分で周期を管理しながら復習するのは労力ばかりが大きい。おすすめは、自然に反復学習ができるシステムを作っておくこと。

これについては、上で紹介した「付箋で覚える」と「何周も解く」というのが良い反復学習のシステムとなる。この2つを実践することで、適度な間隔を保ちながら自然な反復学習ができるようになっている。

淡々と勉強できている友達を探す

周りを見回すと、勉強しているようで消しゴムを眺めていたり参考書を漫然とパラパラめくっていたり、1時間勉強しただけで昼寝や気分転換をしてしまったりしている人が意外と多い。もしあなたが本気で成果を出そうとするのなら、そうした人を見るのではなく、ただただ淡々と勉強し続けている人を見ること。そして、その人の勉強姿勢を真似ること。もしそういう人が周りにいない場合、あなた自身がお手本になること。

Be the change you want to see in the world. - Mahatma Gandhi

「世界に変化を求めるのなら、あなた自身がその変化となりなさい」

その他勉強全般に関すること

過去に書いた勉強のコツについてをご参照ください。

参考書・問題集(導入編)

この章では、センター試験を経て東大二次試験化学まで対応するための鉄板の書を紹介する。

参考書(導入編)

DOシリーズ

  

鎌田の理論化学の講義 福間の無機化学の講義 鎌田の有機化学の講義

学校の授業+α~センター試験のレベル感のシリーズ。評判はかなり良い。

東大入試レベルよりは遥かに下の内容ではあるが、高1~高2生で、学校の化学の先生がハズレだなあと感じている人にはオススメ。特に理論化学は先生の教え方によって理解度に差が出やすいので、一冊信用できる参考書があると安心。

このシリーズはどれも信頼できるが、「福間の無機化学」は特にしっかりと内容が整理されている。無機化学は学校で習っただけでは「ごちゃごちゃしてなんだかよくわからんな」という印象を受けがち。なので、きっちり整理してくれている参考書を手元においてパラパラめくっていると役に立つことが多い。Amazonで「なか見」で内容が見られるので、気になる人はチェックしてみると良い。

問題集(導入編)

基礎問題精講

化学 基礎問題精講 (略称:基礎問)

問題数が102題と少なめな分、解説が圧倒的に詳しい。物理でいう「物理のエッセンス」のように、問題数は少ないが基礎を独学で習得するにはピッタリ。信頼して質問できる先生がいない場合には、解説が詳しいこれが一番いい。

東大受験生にとっては、後で必ずやることになる「化学の新演習」と難易度的に被りが少ないので「化学の新演習」に入る前の一冊としておすすめできる。これをやったあとすぐに化学の新演習を解こうとするとかなり難しいと感じるかもしれない。自分の対応力や時間的余裕に応じて、すぐに「化学の新演習」をやるか、間にもう一冊中級編の問題集(後述)を挟むか考える必要がある。

なお、高校の授業が良くて、化学の基礎がきちんと理解できている場合には、このレベルの問題集は飛ばしてしまってもかまわない。Amazonで「なか見」で内容が見られるので、気になる人はチェックしてみると良い。

標準問題集

理系標準問題集 化学 (略称:標問)

問題数は202題と、多すぎも少なすぎもしない量。また解説も詳しい。東大受験生で、時間がまだまだ余っている高2生にはお勧め。東大志望の高3生であれば、このレベルにあまり時間をかけていられないので、より問題集の少ない、上記の基礎問題精講をオススメする。

標問と略される問題集はあと一つ(化学 標準問題精講)あってややこしいので略称には要注意。

問題集(中級編)

化学の新標準演習

 

化学の新標準演習 (略称:新標準)

左が新課程の方。右の「化学Ⅰ・Ⅱの新標準演習」は旧課程。といっても、化学においては新・旧課程は名ばかりでほとんど入試問題の内容に変更はない。

右の旧課程版でさえ359題と問題数が非常に多かったが、左の新課程版では560題と圧倒的な問題数。ただしこの増量分は「センターチェック」というセンター形式の選択式の問題がほとんどのため、うまく使える人には良い改変だ。解説も200ページ超えで非常に詳しい。

東大受験生としては、「化学の新演習」をやる前のステップとして利用したい。したがってこの問題集に手を出す場合はあまり完璧に何周もしようと試みず、高2~高3の一学期の間にさらっと終わらせておくこと。これをキッチリ終わらせてから「化学の新演習」も3周解くとなると入試にはとても間に合わない。

重要問題集

実戦 化学重要問題集 (略称:重問)

問題数は275問。国公立大学(旧帝大含む)受験には鉄板の問題集。良問揃いで問題数も275問としっかりしていて網羅性が高い。

「化学の新標準演習」と同じく、東大受験生が使う場合は、「化学の新演習」をやる前のステップとして利用することとなる。気になる問題150~200問程度でもいいので、高2から高3の夏休み前までには一周は終わらせておきたい。骨のある問題も多く、最難関大の受験勉強への橋渡しとしては一番おすすめできる問題集。一部の良問は、「化学の新演習」を始めてからもたびたび戻ってきて解きたいくらいだ。

ただし解説がそれほど丁寧ではないので、分からない部分を「化学の新研究」で独学で解決できる能力があるか、信頼できる先生がいる場合でないと使いづらい。

標準問題精講

化学 標準問題精講 (略称:標問)

問題数は102題。「標準」とあるが難易度は高めで、重要問題集のB問題レベルの問題が集められている。厳選された良問が多い良い問題集だが、網羅性に欠ける。東大物理で効率的に及第点を取りたければ良いが、高得点~満点を取りたいのであればやや網羅性不足。

参考書・問題集(上級編)

東大レベルはここからが本番。脳から汁が溢れ出るような努力を続けて道を切り開く。

参考書

化学の新研究

化学の新研究 (略称:新研究)

必須。これ無しで化学を勉強するのは、辞書無しで英語を勉強するのと同じ。一応参考書のくくりだが、辞書のような感覚で使うのがいい。これを初めから読み進めようとするのは無謀。問題集を解く際に傍らに置いておいて、問題集の解答解説を読んでも解決できなかった場合のみこの本を開いて解説を探すというスタイル。このように使用条件を限っても、入試までの間に相当回数本書を開くこととなる。

 

このように使う都度どんどん書き込んでいくと、時が経つにつれて最高のパートナーになっていく。

問題集

化学の新演習

化学の新演習 (略称:新演習)

目安: 大問1つ15分。1周するのに80時間。3周合計150時間。

問題数は331題とやや多め。「大問1つ15分では解けない」と思うかも知れないが、1分考えて分からない問題はすぐに答え(と新研究)を見ることで勉強を効率化していけば可能。何冊も手を出すより、この1冊を完璧にする。

解けなかった問題、解けたけど悩んだ問題にチェックして何周も繰り返すこと。ご覧のとおり、たとえばこのページは、ぼくが一周目に解いたときには悩まずに解けた問題は一問も無かった。一周目は7割以上にチェックが付くが、それでいい。徹底的な反復学習によってのみ力がつく。このやり方で3周やれば、東大化学の過去問で7割取れる力がついているはずだ。

有機化学演習

有機化学演習 (略称:なし。そのまま「有機化学演習」)

東大受験生としては、有機化学の知識の定着用として使いたい。全問解く必要はない。例題だけやるのでもOK。

東大受験では、簡単なことが多い有機分野でキッチリと9割以上取ることが重要になってくるので、知識に抜け漏れがあっては困る。知識の確認に東大受験生の多くが使い続けている定番の問題集。

こんな感じで基礎知識が綺麗にまとまっているので、買うつもりなら知識の整理のためにもなるべく早めの段階で。

25ヵ年

 

東大の化学 25ヵ年

必須。東大には東大の、繰り返し繰り返し出題されている題材や考え方がある。これは本当に驚くべきことなのだが、2~3年周期で同内容または同じ切り口の出題が何度も何度も繰り返されているのだ。東大の入試問題を作っているのは東大の教授なのだが、やはり教授にとってみても、東大の作風を守るという意味でも、実際の過去問と近い切り口・視点で出題しておくのが安心なのだろう。

新演習を3周すれば東大過去問で7割取れると書いたが、逆に言うと新演習だけでは極めても7割までしか伸びないように感じる。東大の過去問を10年分くらい解くと東大だけが繰り返し扱う題材や思考法がわかってくるので、その段階で初めて満点近くが狙えるようになる。

なるべくたくさん入試問題を解きたい人は、「25ヵ年」は少し昔のものを買って、最近の過去問は全科目セットの過去問で入手するなどの工夫をするとより多くの過去問が確保できる。

「25ヵ年」は年度順ではなく分野別に問題がまとまっているのが、使い方によっては使いづらい。ぼくは常に自分の実力を測りたかったので、切り離して年度別に並べ替えて化学とセットにして本番さながらに時間を計って解いていた。(注:裏表で別の年度の問題が印刷されていたりするので、切り離して年度ごとに解くのは結構管理が大変)

東大化学

駿台の講習「東大化学」に行くともらえる教材。めちゃくちゃ難しいので、東大理3を目指す人など東大化学で高得点を取る人が冬休み以降にやるような内容だけど、濃密でかなり使える。受験生時代にいろいろな講習に(タダで)参加した経験から言うと、駿台は講習教材の分量が圧倒的。1回駿台の志望大学の講習に出て教材だけもらっておくといい。写真のものは夏期講習でいただいたもの。冬期講習等でも多分似たような教材がもらえるはず(要確認)。

過去問演習

過去問を解く時期

新演習を3周解き終わってから取り組みたい。時期としては、二次試験の過去問は遅くとも冬休み前くらいには開始する。

それまでの間は、問題集で志望校の過去問を見かけた場合はなるべく避けるようにしたい。過去問演習をしながら常に自分の実力を測れる状態にしておくほうが自分の立ち位置が分かりやすいし、モチベーションアップにも繋がるので。

過去問演習と復習

過去問は解くだけで疲れてしまって、復習が疎かになってしまうという人も多いがそれは非常にもったいない。そうなってしまう一つの原因は、1年分の過去問を全教科まとめて解いてしまうことだ。たまにはそういうことをしてもいいが、基本的にはこれをするとエネルギーを使い果たして復習が疎かになってしまう。普段の過去問演習では復習の方が大事なので、復習のエネルギ-を残しておくためにも過去問は一教科だけで解いて、その都度復習するようにしたい。

150分のテストなら復習に1時間以上かかってしまうかもしれないが、新しい問題を次々に解くよりも確実に濃密な学びができる。ここをサボるのは一番やってはいけないことだ。

問題集から過去問の流れ

以下では、東大化学で高得点から満点を狙うための、効率的な参考書・問題集のセットを紹介する。

 

  

化学の新研究重要問題集化学の新演習過去問

化学の新研究は常に傍らに置いておく。

重要問題集はさっさと終わらせ、化学の新演習を3週かけて完璧にする。その後、東大の化学25ヵ年を徹底的にやる。

高2生や学校の化学の先生があまりよくない人は、これら3冊に入る前に、導入編で紹介した参考書や問題集も用いた方が良いかもしれない。たとえば、DOシリーズと基礎問題精講など。

まとめ

化学は主体的に学び始めるまではさっぱり分からないものだ。高2までは多くの学生が、喜々として化学の授業をする先生を見ながら「何言ってんだこの人…」と内心思っているかもしれない。

ただ、自ら学んで、各単元の基礎的な内容が自分の言葉で説明できるまで理解できたときには、一気に学習した知識が有機的に結びつき始め、そこにぼんやりと全体像が浮かび上がってくる。そこまで辿り着くのはとても苦しいが、その先はあと少しで晴れ渡った世界が待っている。

最後に、「化学の新研究」「化学の新演習」「化学の新標準演習」という三冊の名著を書き上げた卜部先生とともに、受験生のみなさんに次の言葉を贈りたい。

苦痛なしには勝利なし、荊を避けては王座なし。

そこに、大学受験の枠を超えた学びがありますように。

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