東大物理で高得点・満点を狙う効率的勉強法と参考書総まとめ

入試直前期、ぼくは直近10年間の東大理科(物理+化学)過去問で120点満点中平均117点取れていた。割合でいうと9割7分。しかも150分中、80分くらいで解けていた。もちろん二周目ではなくて初見である。したがって国内の同学年では、指折りのレベルで受験理科をマスターしていたといえる自信がある。

そんなぼくも、理科はもともと別に好きでも得意でもなくて、秋の東大模試では物理+化学で120点満点中40点くらいという、東大受験生としてはやや見劣りするくらいの数字だった。この結果には少しだけ焦ったが、センター試験から二次試験までの1ヶ月間の猛勉強で、冒頭のとおり過去問で満点近くとれるレベルまで達した。

この経験をもとに、今回の記事では短期間で東大物理を得点源にする効率的な勉強方法をご紹介する。ただし、決して怪しい裏道ではなく、王道かつ正攻法である。ぼく自身が中高6年間塾には通わず独学で通したので、今回の記事は同じように独学で頑張る人を対象としている。

 

基本の考え方

物理の得意・不得意について

ある程度しっかり勉強すると、東大レベルの物理が得意か不得意かというのは、ほとんど数学の得意・不得意と一致してくる。

「習った法則を個別具体的な問題・事象に当てはめ」、

「ガリガリ計算を進める」

ことによって問題を解いていくという意味では、やっていることは数学も物理も大して変わらないからだ。というわけで、いま物理が得点源ではない人も、数学が得意な人は安心して勉強を進めればそのうち高得点が取れるようになる。

数学が苦手な人であっても、物理で出会う計算は決してそんなに複雑ではないので、速く正確に計算を進めていく能力さえあれば問題はない。

 

物理の分野について

物理には力学・電磁気学・熱力学・波動という4分野がある。原子は二次試験ではほとんど出ないし、センター試験では熱力学との選択なのでここでは無視ということで。

センター試験ではこの4分野からまんべんなく出題される。

二次試験では、力学と電磁気学で大問1つずつ、熱力学・波動のどちらかで大問1つという構成が多い。

必ずではないが、東大では第3問で熱力学と波動が毎年交互に出題されるという傾向がある。この辺の基本情報は、詳しい友達に聞くなり軽くネットで調べるなりしておくといい。

問題集の解き方

問題集を解くときには、

1. 1分考えても分からない問題は答えを見ること。

2. 計算問題はノートに書いて解くこと。

3. 分からなかった問題はすぐに参考書で徹底的に理解。その問題はチェックしておき、時間を空けてもう一度解く。チェックが無くなるまでこれを繰り返すこと。

この3点を守ってほしい。1.は時間短縮のためと挫折を防ぐため。2.は、分かったと思ってもいざ計算を進めてみると意外とつまずくことも多いため。自分の「分かった」をあまり過信してはいけない。

物理においては「理解する」ということがとにかく大事なので、解けなかった問題はすぐに参考書等で徹底的に理解することが大事。その場で理解できなくても、チェックしておいて先生に聞くなり後で戻ってくるなりして、なぜその答えになるかをしつこく追究するべき。化学は解法丸暗記でもいいが、物理は時間をかけてでも「理解」にこだわること。

なぜ理解が必要かというと、大学入試物理は覚えるべき範囲・分量が少ない分、あの手この手で視点を変えて出題されるからだ。したがっていかに深くまで対象を理解し、こうした揺さぶりに対応できるかが得点を左右することになる。

淡々と勉強できている友達を探す

周りを見回すと、勉強しているようで消しゴムを眺めていたり、参考書を漫然とパラパラめくっていたり、1時間勉強しただけで昼寝や気分転換をしてしまったりしている人が意外と多い。もしあなたが本気で目標を達成しようとするのなら、そうした人を見るのではなく、ただただ淡々と勉強し続けている人を見ること。そして、その人の勉強姿勢を真似ること。もしそういう人が周りにいない場合、あなた自身がお手本になること。

Be the change you want to see in the world. - Mahatma Gandhi

「世界に変化を求めるのなら、あなた自身がその変化となりなさい」

その他勉強全般に関すること

過去に書いた勉強のコツをご参照ください。

参考書・問題集

この章では、センター試験を経て東大二次試験物理に対応するための鉄板の書を紹介する。

参考書

物理のエッセンス

 

物理のエッセンス 力学・波動 物理のエッセンス 熱・電磁気・原子

定番の書。授業を一通り受けたあと(受ける前の独学でも使用可)、全体像のおさらいや問題の解き方の確認におすすめ。

よくまとまっていて、持っていて時間の節約になることはあっても無駄になることは絶対にない。よほどお金に困っているのでもない限り全員買うべきかと。参考書と問題集の間のような存在で、解説~例題の流れがスムーズ。

ただし、問題集として使うには微妙。その理由は3つある。1つめは解説がそこまで詳しくないこと。2つ目は単問ばかりで入試問題っぽくないこと。3つ目は東大受験生には問題が簡単すぎること。これらの理由から、問題集は別で用意して、この本は参考書として使うだけというのが贅沢だがいい。

「熱・電磁気」はそこまで評判は高くないが「力学・波動」の方は名著と名高い。高3の初め~夏休み前には仕上げておきたい。

漆原の物理

漆原の物理

上記の「物理のエッセンス」は、熱・電磁気・原子の評判はそれほどよくない。決して悪い本ではないのだけど、ちょっと凝縮しすぎていて、行間を読まないとあれだけではなかなか分かりづらいところもある。

そういうわけで物理のエッセンスが合わない人、物足りない人も中にはいるので、そういう人には「漆原の物理」をオススメする。化学でもオススメしたDOシリーズの書籍なので、化学でDOシリーズを使っている人は比較的馴染みやすいと思う。こちらにしてみたところで完璧ではないので、もやもやする人はエッセンスと両方使うか、努力で補うしかない。

問題集

物理は絶対的にオススメできる問題集があまりないのだが、その中でも信頼できる問題集を以下に紹介する。

重要問題集

実戦 物理重要問題集 (略称:重問「じゅうもん」)

問題数は155題。A問題139題、B問題16題。うち必解問題81題。

網羅性が高く良問も多く、物理の問題集への第一歩としては一番オススメできる。物理のエッセンスからのステップアップや、物理のエッセンスを読みながら解き進めるのにちょうどいい難易度。ただし解説がそれほど丁寧ではないので、独力で解決できるか、信頼して質問できる先生がいる人でないとやや使いづらい。

学校の授業があまりよくなくて、重要問題集さえあまりに難しい人は、良問の風から入るといい。

東大レベルならこれを一周やってから過去問演習でも良いが、できれば過去問演習までにもう一冊問題集をやるとスムーズ。

名問の森

 

名問の森物理 力学・熱・波動1 名問の森物理 波動2・電磁気・原子

問題数はそれぞれ64題と72題。

レベル的には重要問題集と同じなので、どちらか一方だけでいい。こちらの方が解説が詳しいので、独学で頼れる先生がいない人は、重要問題集を買う前に名問の森も書店でチラ見すべきだろう。問題集にはどうしても相性があるので、気に入った方を選ぶといい。

「物理のエッセンス」→「名問の森」の流れでは名問の森が難しいと感じる人もいるようだが、東大受験生はまずはこの流れを試してみるのが良い。もともと筆者の方はそういう位置付けでこの二冊を書いているので、少々難しく感じても解答を読みこんだりしてこなしていくのが効率的だと思われる。

※漢字は「名門の森」ではないので要注意

入試の核心

 

Z会が作成しているシリーズ。

名問の森と同じくらいの難易度なので、名問の森が合わない人はこれを使うと良い。

難問題の系統とその解き方

難問題の系統とその解き方 (略称:難系「なんけい」)

問題数は例題118題、演習問題177題。

東大レベルの受験生向けにオススメ、と言いたいところだが、なんとも言えない。考え方の基礎となる良問や骨のある問題が多く、正統な十分に良い問題集ではあるのだけど、装丁がやや古臭いのが玉に瑕。白壁の微瑕。

東大でも(理3でも)例題だけをしっかりやってから過去問に移れば十分。

解答が真横にあって使いづらいので、ぼくは全ページコピーして解答と切り離して使っていた。

標準問題精講

物理 標準問題精講 (略称:標問「ひょうもん」)

問題数は90題。

難問題の系統(難系)と難易度的に被っているので、どちらかを選んで徹底的にやり切るのがいい。難問題の系統と比べても遜色がないどころか難しめの問題が並んでいるようなレベルなので、「標準」の言葉には騙されないようにしよう。

新・物理入門

 

新・物理入門 新・物理入門問題演習

Amazonでは非常に評価が高い、微分による解法を提示する参考書と問題集。しかし東大物理で満点を取るにしても、微分による解法は不要。新たなことを学ぶ労力は大きいので、大学受験のためという観点では不要だろう。趣味で勉強する分にはかまわない。

25ヵ年

 

東大の物理25カ年

必須。東大には東大の、繰り返し繰り返し出題されている題材や考え方がある。これは本当に驚くべきことなのだが、2~3年周期で同内容または同じ切り口の出題が何度も何度も繰り返されているのだ。東大の入試問題を作っているのは東大の教授なのだが、やはり教授にとってみても、東大の作風を守るという意味でも、実際の過去問と近い切り口・視点で出題しておくのが安心なのだろう。

難問題の系統やそのレベルの問題集を何周まわしても東大の過去問で満点はなかなかとれるようにならない。東大の過去問を10年分くらい解くと東大だけが繰り返し扱う題材や思考法がわかってくるので、その段階で初めて満点近くが狙えるようになる。

なるべくたくさん入試問題を解きたい人は、「25ヵ年」は少し昔のものを買って、最近の過去問は全科目セットの過去問で入手するなどの工夫をするとより多くの過去問が確保できる。

「25ヵ年」は年度順ではなく分野別に問題がまとまっているのが、使い方によっては使いづらい。ぼくは常に自分の実力を測りたかったので、切り離して年度別に並べ替えて化学とセットにして本番さながらに時間を計って解いていた。(注:裏表で別の年度の問題が印刷されていたりするので、切り離して年度ごとに解くのは結構管理が大変)

過去問演習

過去問を解く時期

「これ」と決めた、難系レベルの問題集を2~3周解き終わってから取り組みたい。時期としては、二次試験の過去問は遅くとも冬休み前頃には開始したい。

それまでの間は、問題集で志望校の過去問を見かけた場合はなるべく避けるようにしたい。過去問演習をしながら常に自分の実力を測れる状態にしておくほうが自分の立ち位置が分かりやすいし、モチベーションアップにも繋がるので。

過去問演習と復習

過去問は解くだけで疲れてしまって、復習が疎かになってしまうという人も多いがそれは非常にもったいない。そうなってしまう一つの原因は、1年分の過去問を全教科まとめて解いてしまうことだ。たまにはそういうことをしてもいいが、基本的にはこれをするとエネルギーを使い果たして復習が疎かになってしまう。普段の過去問演習では復習の方が大事なので、復習のエネルギ-を残しておくためにも過去問は一教科だけで解いて、その都度復習するようにしたい。

150分のテストなら復習に1時間以上かかってしまうかもしれないが、新しい問題を次々に解くよりも確実に濃密な学びができる。ここをサボるのは一番やってはいけないことだ。

問題集から過去問の流れ

以下では、最短で東大物理で高得点から満点を狙うための、効率的な参考書や問題集の流れを紹介する。

 

  

エッセンス重要問題集難問題の系統過去問

エッセンスは、常に傍らに置いておく。初めに通読してもいいが、授業で物理を習い終わっているのであれば、別に通読する必要はない。重要問題集を解きながら、辞書みたいに使えばいい。

重要問題集はさっさと終わらせ、難問題の系統もさらっとこなす。難問題の系統は夏休み明けくらいに1周できていればペース的には完璧。その後、東大の物理25ヵ年を徹底的にやり込む。

マイナーチェンジする点があるとすれば、以下のとおり。

  • 重要問題集の前に、良問の風をやってもいい。
  • 重要問題集の代わりに、名問の森をやってもいい。
  • 難問題の系統の代わりに、標準問題精講をやってもいい。

まとめ

物理はとっかかりが難しく、ある時期に一気に集中してやってしまわないといつまで経っても分からないということになり兼ねない。腹を括って本気で向き合ったときに初めて伸びるし、伸びるときは短期間で伸びる。

理科はやった分だけ絶対に伸びる教科でコスパは極めて高いので、早いうちに腹を括って主体的に取り組もう。

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物理を学習するとは?(補足)

この話は本来なら初めに持ってきたいくらい重要な話なのだが、あまりに抽象的で、最初に書いても読んでいただけないと思ったので最後に持ってきた。

「物理は暗記科目ではない」とよく言われる。暗記科目でなければ何なのだろう。応用、計算、そういった言葉が受験物理の世界ではよく聞かれる。それもある意味で正しいだろう。ぼくの考えでは、物理は「世界の単純化モデルを脳内に組み立てる」科目だ。

どういうことか。かつてガリレオ・ガリレイは「物体が自由落下する速度はその物体の質量に依存しない」ということを発見した。このことを証明するために、ガリレオはピサの斜塔から大小2つの鉛球を落とし、同時に着地する様子を示してみせたとされる。しかし実際のところ、これは2つとも鉛球だからほぼ同時に着地するのであって、たとえば片方が鳥の羽根なら鉛球の方が速く落ちるに決まっている。ガリレオの理論は、空気抵抗を無視するという前提に立って初めて成り立つのだ。

これを聞いて「ガリレオ、だめじゃん」と思う人は、物理の考え方がなっていないと言えるだろう。むしろ、こういうふうに世界を単純化して観察できるのがすごいことだし、物理の正統な考え方なのだ。ガリレオのすごさとは、摩擦力のない理論上の単純な世界を脳内に組み立て、その世界の中の計算上では、物体の落下速度は質量に影響されないはずだと考えたことだ。

物理という学問はこのように、そのままでは複雑すぎる現実世界の中から何かを切り捨てて世界を単純化することで、その単純な世界で成り立つ法則を順々に発見していくことで、複雑な現実世界を段階的に解き明かして発展してきたのだ。

大学受験物理はガリレオ~ニュートンの古典物理を習うので、「摩擦を無視」することはとても多い。そのこともあって、特に初学者の内は現実世界からの類推ではうまく題意の現象が想像できないことがよくある。だから、摩擦を無視した理論上の世界でどういったことが起こるのかを、きちんと力学の第○法則といった理論上の法則を元に脳内に組み立てて導けるようになる必要がある。「現実世界ではこうするとこうなるから~」という考え方は早々に諦めた方が良い。理論上の法則を元に、厳密に理論上の世界を積み上げていくのだ。

大げさだと思うかもしれないが、「物理が上達すること」=「世界の単純化モデルを脳内に組み立てられるようになること」だ。そしてそれは、習ってきた物理法則をしっかりとマスターし、目の前の問題で描かれている世界で働いている力学・電磁気学上の関係を漏らさず把握して積み上げることによってのみ可能となる。

力学の問題を解くにあたっては、「重力は?」「垂直抗力は?」「弾性力は?」「摩擦力は?」「浮力は?」「エネルギー保存は?」「運動量保存は?」と自分に問いかけて、目の前の世界で働いている力学関係を漏らさずに淡々と積み上げる作業が必要となる。そして力学の学習とは、この作業のスピードと正確性を高めるということだ。初めは一つ一つ確認するのに時間がかかると思うかも知れないが、この作業に慣れてくれば一瞬で目の前に題意の力学関係が浮かび上がるようになってくる。電磁気学や熱力学についても基本は同じで、習った法則を淡々と積み上げていくことで自然と問題は解けているというのが理想の状態だ。

物理の学習には、「淡々と」という言葉が似合う。学習した物理法則を、悩まず迷わず「淡々と」積み上げられるようになったとき、もう物理のテストで点を落とすことはなくなっているだろう。

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