Fujifilm X-E3を購入した。なぜオリンパスやソニーではなくフジを選んだか。

Fujifilmのミラーレス一眼カメラ、X-E3 + XF23mmF2 R WRを購入しました。

作例付きのレビューは別の記事で公開しておりますが、今回 の記事では購入にいたった経緯をご紹介したく思います。

 

なぜミラーレスにしたか?

そもそもなぜデジタル一眼レフではなく、ミラーレスにしたか。

ほんの数年前までは、「ミラーレス一眼なんて画質が中途半端で、持つ意味がない」と言われていましたが、現代のミラーレス一眼の進歩は著しいです。ここ最近は「ミラーレス一眼はデジイチを超えた」などと言われることが多いです。

 

一番のメリットは軽量性。一眼カメラを初めて購入する方は見落としがちなポイントですが、軽量性は趣味のカメラにとって一番大事な要素です。初めての一眼を買ったけれど、重くてタンスで眠っているという話はめちゃくちゃよく聞きます。

画質についてはミラーレスと一眼レフの差はほとんどなくなってきています。であれば、軽量性に優れるミラーレス一眼の方が優秀ということです。

なぜ富士フイルムのカメラにしたか?

ミラーレス一眼の世界には、フジのライバルとしてオリンパスやソニーもいますが、彼らと比べた富士フイルムの特長は次のようなものがあります。

  • JPEG撮影時の色が綺麗である。
  • カメラ自体のデザインが秀逸。
  • 軽量で取り回しがよく、機動力がある。
  • 単焦点レンズの銘玉が多い。

 

前者2点「JPEGの色」「カメラのデザイン」は主観的な話ですが、富士フイルムのカメラを買う人は、これらの点が決め手となって購入する人が非常に多いです。カタログスペックよりもフィーリング・直感重視の選択といえるかもしれません。

 

オリンパスのOM-Dシリーズのイメージは「優秀」「便利カメラ」です。軽量性、ズームレンズの画角カバー範囲の広さ、センサーゴミ除去機能の高さ、手振れ補正などなど、機能面では間違いなく一番使いやすいです。画質とカメラデザインがどれだけ重要かによりますが、非常に良いカメラです。

 

ソニーはフルサイズの重い・高い・高画素数のミラーレス(α7、α7R2などなど)をいっぱい出しており、「カタログスペックの鬼」というイメージ。APS-Cサイズのα6500はどちらかというとフルサイズシリーズのおまけのようなイメージで、レンズの充実度は低いです。

 

以上から、軽量のミラーレスであれば富士フイルムかオリンパスの二択。画質重視なら富士フイルム、機能重視ならオリンパスというイメージかと思います。

 

画質・作例

せっかくなので、少しだけ作例を掲載します。画像サイズを下げるために画質は落としています。

その他作例については、下記記事をあわせてご参照ください。

https://linguo-inst.com/entry/x-e3_xf23mm/

 

カメラのデザイン比較

カメラのデザインは以下のような感じです。

拡大画像:

  
左からSonyのα6500、オリンパスのOM-D E-M10 MarkII、FujifilmのX-E3です。Sonyはレンズキットが無いので、ボディのみの写真になっています。オリンパスだけ上部に突起があるのが特徴的です。

オリンパスのカメラは「ガジェット」感があり、富士フイルムやソニーのカメラは「カメラ」感のあるデザインになっているように思います。

SonyとFujifilmは正面から見るとそこまで変わらないように思うかもしれませんが、上部ダイヤルや細部の作りこみで、実物を見ると圧倒的にFujifilmがかっこいいと思います。

富士フイルムのミラーレスの軽量性

ミラーレスカメラの軽量性においては、富士フイルムとオリンパスは非常に優秀という印象です。Sonyはやや劣ります。

とりあえず、ズームレンズ1本付けっぱなしと考えて、各社のミラーレスカメラの重量比較をしてみましょう。レンズは軽量なミラーレスに見合う軽量設計のものをなるべく選んでいます。

 

  • 富士フイルム+ズームレンズ

ボディ:X-E3 (287g)

レンズ:XC16-50mmF3.5-5.6 OIS II (195g)

合計:482g

 

  • オリンパス+ズームレンズ

ボディ:OM-D E-M10 MarkII (351g)

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ (93g)

合計:444g

 

  • ソニー+ズームレンズ

ボディ:α6500 (410g)

レンズ:E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS (116g)

合計:526g

 

ズームレンズでは、意外と各社似たような重さ(500mlペットボトル1本程度)で組むことができました。しかし、この中ではやはり、FujifilmのXC16-50mmF3.5-5.6 OIS IIがレンズの画質評価が格段に良いです。

 

※ソニーのズームレンズとしては、画質を考慮して上記の軽いものよりも、Vario-Tessar T* E 16-70mm F4 ZA OSS SEL1670Zを選ぶ方が多いかと思います。この場合レンズ重量が308g、合計重量718gと、結構しんどい重さになります。

 

※富士フイルムは、電動ズーム式のXC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ (135g)を先日発売していますが、このレンズは評価が定まるまでやや待ちたいところ。もし評判が良ければ、X-E3に付けるズームレンズはこれ一択かと思いますが、電動ズームがやや微妙というクチコミもあり。

 

なお、X-E3の標準キットレンズであるXF18-55mmF2.8-4 R LM OIS (310g)は、X-E3に付けるには重すぎるとの声が多いです。X-E3を購入される際、ズームレンズキットを検討されている方はほんとうにその選択で良いかどうか慎重に検討しましょう。

 

単焦点レンズの豊富さ

富士フイルムは、X-E3に付けたいような軽量単焦点レンズのラインナップが非常に充実しています。中でもオススメなのが以下のF2シリーズ。

  • XF18mmF2 R (116g)

富士フイルムには珍しいパンケーキレンズで、軽くて扱いやすいのですが、換算27mmのやや微妙な画角(iPhoneと同じ画角なので、現代人に馴染みのある画角といえるかもしれませんが)。風景用とストリートスナップや室内用に対応できる、と言ってみればいいかんじにも思えてきますが、風景用にはやや狭く、ストリートスナップ用にはやや広いという感じかもしれません。まあ、画角は人それぞれの好みが激しいので、一般化できる話ではないですが。風景に特化したいなら、XF14mm (235g)やXF16mm (375g) というレンズがあります。

 

  • XF23mmF2 R WR (180g)

(ブラックもあります)

銘玉です。より高級なXF23mmF1.4 R (299g) もありますが、画質は微差ですので、X-E3に付けるには軽くて防塵防滴のXF23mmF2をお勧めします。

なお、X-E3の単焦点レンズキットにはこのレンズが付属します。公式にもX-E3に付ける単焦点レンズとしてオススメということでしょう。

 

  • XF35mmF2 R WR (170g)

より高級なXF35mmF1.4 R (186g)もあります。こちらのF1.4Rは富士フイルムでも一、二を争うほどの銘玉で神レンズと呼ばれており、しかも軽量です。したがって、防塵防滴が必要なければF1.4Rがいいでしょう。

 

  • XF50mmF2 R WR (200g)

このレンズには、Fujifilm社内に焦点距離が近いライバルレンズが2つあります。XF56mmF1.2 R APD (404g)とXF60mmF2.4 R Macro (213g) です。前者はポートレート撮影に特化したレンズです。重くて高いけど画質は最高(ただし寄れない)。後者はマクロ撮影ができます。XF60mmはオートフォーカスが遅いと言われているので、その点はご注意を。

これら二つのレンズと比べて、XF50mmは何かに特化しているわけではなく、何でもできる軽量万能レンズという感じです。ボケは綺麗ですし、それなりに寄れます。

 

これらF2シリーズは、「軽量性を重視しつつ画質は文句無し」という、富士フイルムの理念を体現する素晴らしい単焦点レンズシリーズです。富士フイルムはこれがあるので、この良さが分かる人にとってはなかなか他社のカメラを使う気がおきません。

 

 

F2シリーズ以外で、富士フイルムの軽い単焦点レンズといえば以下があります。

  • XF14mmF2.8 R (235g)

風景用レンズは14mm, 16mm, 18mmのどれを選ぶかかなり難しいです。14mmはパースがかなり付くので人物撮影や物撮りには使いづらく、風景に特化した画角といえます。

 

  • XF16mmF1.4 R WR (375g)

重さと価格が大丈夫であれば、風景用+ストリートスナップ用の広角レンズとしてはこちらの16mmがちょうどいいと思います。

 

  • XF27mmF2.8 (78g)

富士フイルムには珍しいパンケーキレンズ。換算40mm余りというあまり一般的ではない画角ですが、X-E3に付ける標準レンズとしてはかなり相性が良いと思います。

 

  • XF35mmF1.4 R (186g)

上述のとおり、良い単焦点レンズの多いFujifilmの中でも一、二を争う銘玉です。

 

  • XF60mmF2.4 R Macro (215g)

マクロ撮影がしたい方に。AFが遅いのは要注意。

 

楽しくて、少しレンズを紹介しすぎてしまいました。

 

なぜX-E3にしたか?

今、富士フイルムのミラーレスから選ぶならいろいろと選択肢があります。

現行機種ではX-Pro2、X-T2、X-T20、X-E3、X-A5、X-A3があります(X-H1はとりあえず選外)。

型落ちでは、X-Pro1、X-T1、X-T10、X-E1、X-E2辺りも選択肢にあがりやすいです。

さらに、レンズ固定式ですがX100Fという非常に優秀な高級コンデジもあります。

 

この中でX-E3と迷いうるとしたら、X-T2、X-T20、X-E2、X100F辺りでしょうか。

単純に言ってしまえば、

防塵防滴ならX-T2。チルト液晶が必須ならX-T20。型落ちで良ければX-E2。レンズ交換をしないならX100F。

X-E3の特徴としては、

  • 軽い。
  • ジョイスティックならぬ「フォーカスレバー」(AFスティック)がついており、使いやすいと評判。
  • タッチパネル対応。ただしこちらは「まあ使える」というくらいの評判。
  • 内蔵フラッシュが無い。

またX-E2と比べると、オートフォーカスのスピードを含め、全体的に少しレベルアップしています。

 

X-E3 + XF23mmF2 R WRとX100Fの比較はドツボにはまると延々とハマりつづけますが、ポイントだけ挙げると以下のような感じ。

  • X100Fについているレンズは23mmなので画角は同じ。
  • 描写はX100Fが解放付近でゆるめ。
  • 撮影可能最短距離はX100Fの方が短い(=X100Fの方が接写が得意)。
  • デジタルテレコン機能があるため、X100Fはレンズ交換せずとも50mm・70mm相当での撮影が可能。

デジタルテレコン機能は一見邪道のようですが、それほど画質に悪影響なくふつうに使えると評判です。レンズ交換式のX-E3にもぜひつけてほしい機能。

 

私がX-E3を選んだのは、主に以下の理由からです。

  • 肩こりが酷いこともあり、軽量性を特に重視する。
  • スナップ撮影をするので、AFは速ければ速いほど良い。
  • 画質はなるべく良い方が良い。
  • 防塵防滴やチルト液晶は不要。
  • フォーカスレバーがあるのでピント合わせが速い。

実際に使ってみてとても満足しています。

ピント合わせについては、速さ重視の場合にはフォーカスレバーで移動するよりも、半押しでピントを合わせてからカメラの向きを変えてフレーミングを行う方が速いです。

ただ、ある程度以上カメラの振りが大きい場合はコサイン誤差が気になるので、基本的にはフォーカスレバーである程度ピント合わせをしたい点までフォーカスポイントを動かしてからピント合わせをしています。というわけでフォーカスレバーはかなり役立っています。

フォーカスレバーがあって軽量のカメラとなると、現状はX-E3一択です。

なぜ単焦点レンズキットにしたか?

上述のとおり、ズームレンズキットに付属のズームレンズXF18-55mmF2.8-4 R LM OIS (310g)は、X-E3に付けるには重すぎます。

X-E3の軽量性を尊重するのであれば、ズームレンズが欲しくてもズームレンズキットは買わない方がいいと思います。

標準ズームレンズが欲しければ、単焦点レンズキットまたはボディのみで購入したうえで、ズームレンズは別のものを購入した方がいいのではないかと思います。具体的には、X-E3に標準ズームレンズを付けるなら以下の2つのどちらかでしょう。

XC16-50mmF3.5-5.6 OIS II (195g)

XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ (135g)

 

 

今回の記事では、X-E3を選ぶまでに調べたことなどをまとめましたが、

次回以降でX-E3に施した設定や実際に使用してみたレビューを書いていきます。

 

関連記事:

https://linguo-inst.com/entry/x-e3_xf23mm/

Fujifilm X-E3と同時購入したアクセサリーや設定について。

サッカーのルール・用語(観戦者用)を簡単に、初心者にも分かりやすく説明してみた!

今回の記事は、「ワールドカップやJリーグに興味を持ち始めたけれど、ルールがよく分からなくてイマイチ楽しめない」という、サッカー初心者の方のためになるべく簡単に書きました。

とにかく「サッカー観戦を楽しむ」という目線で、知っているとよさそうなルールや用語を分かりやすく解説していきたいと思います。

 

サッカーの基本

以下のルールで対戦します。

  • 11人対11人。
  • 足、もも、胸、頭を使う(腕・肘・手でボールを触らない)。
  • 90分間で、相手のゴールにボールを入れた回数(=得点)が多い方が勝ち。

過去にはなんと、内田篤人選手の同僚のドイツ人選手がお尻で味方にパスをして、それがゴールに繋がった(=お尻でアシストした)こともあります。

ドリブルとパス

サッカーにおける大事な二つの技術、「ドリブル」と「パス」。

ドリブルは、一人でボールを蹴りながら前に運ぶこと。パスは、味方に渡すためにボールを蹴って手放すこと。

どちらも、ボールをなるべく安全に、相手に渡さないように、前に前に動かすことを目標にしています。

ドリブルはボールを取られてしまうリスクが高いですが、相手を抜き去って置いてけぼりにできれば大きなチャンスになります。ドリブルはパスと比べるとハイリスクハイリターンです。

ボールを持った選手は、「次にボールをどこに動かすか」「ドリブルかパスか」を常に考えながらプレーしています。

 

試合時間

サッカーの試合時間は90分間ですが、90分間ぶっ続けでやるわけではありません。

前半45分と後半45分に分かれていて、間に「ハーフタイム」と呼ばれる休憩時間がはさまります。ハーフタイムはだいたい15分です。

また、試合開始のことを「キックオフ」と言います。

 

アディショナルタイム(ロスタイム)

昔は「ロスタイム」と言いましたが、最近は「アディショナルタイム」といいます。意味は同じです。

これは、選手の怪我や交代のために使われてしまった時間を、再度プレー時間として補充するための時間です。

たとえば、選手交代は1回で20秒くらいかかると言われています。試合後半、両チームが3人ずつ(合計6人)選手を交代したら、20秒×6人=120秒。選手交代に2分かかったことになります。

この間、プレーは行われておりませんが時計は進んでしまっておりますので、あとで審判がプレー時間を2分間補充する必要があるのです。この2分間を「アディショナルタイム」と呼びます。この場合、後半は47分間行われることになります。

ふつう、前半のアディショナルタイムは1分。後半のアディショナルタイムは2分~5分ほどあります。後半の方がアディショナルタイムが長いのは、後半の方が疲れによる怪我や交代が増えるからです。

主なルール

ここまでで、サッカーの基本はマスターしていただけたと思います。

それでは続けて、プレー中におこるさまざまなことについて解説していきます。

ボールが外に出てしまったら

ボールを最後に触って外に出してしまったチームは、ボールを失います。そして、ボールを最後に触らなかったチームがプレーを再開します。プレーを再開する選手を誰にするかは自由です。

 

プレーの再開のしかたは、ボールがどこから出たか(=どのラインを割ったか)によって、次の3種類あります。

  • 味方側のゴールラインを割ったとき…ゴールキック
  • タッチラインを割ったとき…スローイン
  • 相手側のゴールラインを割ったとき…コーナーキック

 

ゴールキック、スローイン、コーナーキックは、それぞれ下図の丸印のところからプレーを再開します。

ゴールキック

ゴールキックは誰が蹴ってもいいのですが、ゴール付近からの再開なのでふつうはゴールキーパーが蹴ってプレーを再開します。近くに蹴っても遠くに蹴ってもかまいません。

スローイン

スローインは、ボールがタッチラインを割ったその場所から再開します。この3つのうち、スローインだけは両手でボールを投げ入れます(足で蹴りません)。スローインは、サッカーの試合中でフィールドプレーヤー(ゴールキーパー以外)が手でボールを扱っていい唯一のタイミングです。

<一言コラム> ハンドスプリングスローというスローインの方法があります。飛距離を出すために、ボールを持ちながら器械体操のハンドスプリング(前方転回)をしてから投げるという見た目に愉快なスローインです。2012年、アイスランド代表のソルステインソン選手が日本代表戦で何度も披露し、会場の日本人サポーターたちはアイスランドチームのスローインの度に大盛り上がりでした。

コーナーキック

コーナーキックは、ボールがゴールラインを割った場所から近い方の隅っこからボールを蹴り入れて再開します。コーナーキックは、相手ゴールの近くからプレーを再開するので、ちょっとしたチャンスとなります。ちなみに、コーナーキックから得点が入る確率は、2%くらいだそうです。

 

コーナーキックの蹴り方には、大きく分けて2種類あります。ショートコーナーとロングコーナーです。その名の通り、ショートコーナーは近くの味方選手にパスをします。ロングコーナーは、ゴール正面付近にいる味方選手目掛けて大きくボールを蹴ります。

ロングコーナーの方が得点率が高いようで、割合的には圧倒的にロングコーナーの方が多いです(9割以上?)。ただ、日本人は背が低く、ロングコーナーでは相手選手に当たってしまうことが多いため、日本代表は他国の代表チームより若干ショートコーナーの使用率が高いです。

 

  • ボールがタッチラインやゴールラインを「割る」とは、ボールの一部ではなく、ボール全体がラインの外に出ることを言います。

 

ファウル(反則行為)

試合中、やってはいけないとされている反則行為がいくつかあります。反則行為はサッカー競技規則第12条に詳しく規定されています。ざっくり大事なところだけ紹介すると、以下の行為をすると反則とみなされてしまいます。

  • 相手選手に足をひっかけて妨害する。
  • 相手選手の肩以外に向かって肩でチャージ(後述)する。
  • 相手選手を手や腕で押す、上から抑える、引っ張る。
  • 腕や手でボールを触る(ハンド)。

ファウル(反則)と見なされると、ファウルがあった地点からのフリーキック、またはPKによる再開となります。

少し具体的に説明していきましょう。

スライディングタックル

ボールを持っている相手選手にむかってスライディングをして、そのボールを取りに行く行為はOKです。

ただしその際、ボールに触れずに相手選手の足だけを引っかけて倒してしまった場合、ファウルを取られてしまいます。

したがってスライディングをする場合は、必ず相手選手の足ではなく、ボール目掛けて足を出す必要があります。

 

チャージ

※この画像はチャージはしていません。

ふだん聞きなれない言葉だと思いますが、「チャージ」とは、相手選手に対してぶつかっていくことです。基本的に、「肩から肩へのチャージ」は、サッカーではOKです。

しかし、相手選手の背中にチャージしたり、チャージの力が過剰に強かったりすると、ファウルを取られることがあります。

最終的にファウルかどうか判断するのは主審です。ファウルかどうかの判断は、なかなか難しいものがあります。とりあえずは、相手選手が吹き飛んでしまうほどの強すぎるチャージや、危険なチャージはファウルと思っておけば大丈夫です。

 

ハンド

肩より先(腕・肘・手)でボールを扱うと、「ハンド」という反則行為になってしまいます。

それでは、故意ではない場合はどうでしょう?相手選手がシュートを打ったときに、たまたま自分が腕を広げていて、たまたまボールが自分の腕に当たってしまった場合はハンドになるでしょうか?

正解は、YESです。

胴体から離れた腕にボールが当たった場合、それがわざとではなくても、ハンドと見なされてしまいます。もし腕が体にぴったりくっついていれば、その腕にたまたまボールが当たってしまっても、それはハンドとは見なされません。

なので、相手のシュートには、しっかりと腕をしまって対応することが大事です。

 

<一言コラム> 史上最高のサッカー選手マラドーナは、手でボールを押し込んでゴールしたことがあります。当然ハンドになるはずなのですが、審判はこれをヘディング(頭でのゴール)と判定。そのまま得点が認められてしまいました。マラドーナは試合後のインタビューで、「ただ神の手が触れた」と表現しました。今でもこのゴールは「神の手ゴール」として非常に有名です。

 

 

  • アドバンテージ…ファウルを犯されたチームがボールを失わず、引き続き有利な状況にある場合、主審の判断によりプレーを続行することがある。これを「アドバンテージをとる」と言う。

 

PK(ペナルティ・キック)

ここまで紹介してきたようなファウル(反則行為)を、ゴール前の白い長方形の範囲内(=ペナルティエリア内。上図の赤枠部分)で行ってしまった場合、相手にPKが与えられます。

 

PKは、ゴールまで11mの地点にボールを置いて、キッカーとゴールキーパーが1対1で行います。キッカーは誰でもかまいません。キーパーでもできます。

PKではこの距離からボールを蹴る。キーパーが弾いたボールを押し込んでもゴールになるので、両チームの選手が後ろで待ち構えている。

(Photo by Björn Láczay – Flickr)

この距離でシュートを止めるのはかなり難しく、PKの成功率(PKで得点を決める確率)は約80%と言われています。ボールを見てからでは間に合わないので、ふつうキーパーはキッカーが蹴る方向を予測して、左右どちらかにジャンプします。

サッカーの試合はなかなか点が入らないので、PK1つは試合の中で非常に大きなインパクトがあります。

 

<一言コラム> PKの名手といえば、元日本代表の遠藤保仁選手。多くの選手がPKでは強くボールを蹴るのに対して、遠藤選手は「コロコロPK」。ゴールキーパーの動きを見極めて、ゴールキーパーが飛ぶ方向の逆向きにコロコロ(ゆっくり)のPKを決めてしまいます。観察力が鋭くサッカーIQの高い遠藤選手ならではの技です。

カードと退場

イエローカードとレッドカード

日常生活でも、「イエローカード」「レッドカード」などと言うことがありますので、言葉に馴染みはあるのではないかと思います。

ファウルの中でも重いファウルにはイエローカード。とても重いファウルにはレッドカードが主審から提示されます。軽いファウルの場合、カードは出されません。

レッドカードが出されたら、その選手は一発退場。その試合には、もう出られません。イエローカードが出されても、すぐには何も起こりません。同じ試合中に2枚のイエローカードをもらってしまうと、レッドカードを出されたのと同じで、退場処分になってしまいます。

 

イエローカードやレッドカードの基準となる「重いファウル」とは、以下のようなファウルを指します。

  • 危険である。(怪我のリスク)
  • 相手の得点チャンスを阻止する。

「危険である」ファウルの例は、たとえば足の裏を相手の方に向けたタックルです。サッカー選手はスパイクというトゲトゲの靴を履いて試合をしておりますので、足の裏でタックルすると大変危険です。

「得点チャンスを阻止」の例は、たとえば相手選手がボールを持って独走して、自陣ゴールに向かって突っ走っているときに、後ろから服を引っ張って止めようとする行為です。得点チャンスを阻止するとイエローカードが出ますが、それでも「得点されるよりはマシだから」と、わざとファウルをすることも多いです。

 

<一言コラム> スコットランドリーグでは2017年、とある試合で副審が試合中に気持ち悪くなってしまい、フィールドの隅っこで嘔吐。たまらず主審が副審に対して、あろうことかレッドカードを提示するという衝撃の事件がありました。一連の事件に対して、観客は大盛り上がりだったとのことです。

 

退場と出場停止

選手が退場になってしまうと、そのチームは1人少ない人数で試合を続けます。退場者分の人数をベンチから補充することはできません。したがって、退場者が出てしまうと不利になってしまいチームに迷惑をかけるので、選手はなるべく退場を避けるようにします。

また、大会によって異なりますが、レッドカードやイエローカード2枚で退場処分をくらった選手は、同じ大会の次の試合も出場停止となるのが一般的です。

なお、Jリーグでは1試合でおよそ1~4枚のイエローカードが出されます。レッドカードは数試合に1枚しか出ません。

 

累積警告

ワールドカップやJリーグなど、何試合も続くような大会には「累積警告」という考え方があります。大会によって枚数の基準は異なりますが、大会を通じて同じ選手がイエローカードを何枚かもらってしまった場合、次の何試合か出場停止になってしまいます。

たとえばワールドカップでは、大会を通じて2枚のイエローカードをもらった選手は、次の1試合は出場停止となってしまいます。

 

オフサイド

「分かりにくい」といわれることの多いルールが、オフサイドです。

オフサイドは攻撃側の反則行為で、オフサイドになってしまうとそこで攻撃が無効になり、相手ボールでのプレー再開となってしまいます。たとえゴールを決めても、最後のパスがオフサイドの判定であれば、ゴールは無効になってしまいます。

上の図は、赤チームが攻撃をしているところです。A選手がボールを持っていて、味方のB選手にパスをしようとしています。

ここで、B選手のポジションに注目してみましょう。B選手は、黄色チームの中で二番目にゴールに近い選手(C選手)※よりも前にいます。

このとき、B選手は「オフサイドポジションにいる」という言い方をします。パスが出された瞬間にオフサイドポジションにいる選手は、パスを受けてはいけません。パスを受けた場合、オフサイドという反則になってしまい、相手ボールになってしまいます。(パスを受けなくても、オフサイドポジションにいる選手が相手選手の行く手を阻んだりしただけでもオフサイドになります)

またこのときのC選手の位置を「オフサイドライン」といいます。オフサイドラインより前をオフサイドポジションと呼びます。

パスが出された瞬間にオフサイドポジションにいなければ、パスが届くまでの間にオフサイドポジションに入ってパスを受けてもかまいません。

※ふつうはゴールキーパーが一番後ろにいるので、フィールドプレーヤーの中で一番後ろにいる選手の位置がオフサイドラインになります。

 

オフサイドトラップ

守備側は、あえて相手選手がパスを出す瞬間に前に出ることで、相手選手がオフサイドになるように仕向けることができます。これを「オフサイドの罠(トラップ)に仕掛ける」という意味で、「オフサイドトラップ」と言います。

オフサイドトラップが成功すると、攻撃を無効にすることができる(たとえゴールを決められていても得点にならない)ので、プロの試合では積極的に行われています。

選手のポジション・役割

DF、MF、FW

選手の配置は自由であるが、日本代表はこの陣形をとることが比較的多い。この陣形はDF4人、MFが後ろ2人・前3人、FWが1人となるので、「4-2-3-1」と呼ばれる。

サッカー選手のポジションは、大きく分けて4つに分けられます。

  • フォワード(FW)…攻撃的役割。
  • ミッドフィールダー(MF)…攻撃と守備のつなぎ役。DFに近い側のMFを「守備的MF」、FWに近い側のMFを「攻撃的MF」と呼ぶことがある。
  • ディフェンス(DF)…守備的役割。
  • ゴールキーパー(GK)…ゴールを守る役割。ペナルティエリア内では、両手でボールを扱うことが許されている。

ボランチ、サイドバックなど

ポジションをより細かく以下のように呼ぶこともあります。

  • センターバック…守備の要。背が高く空中戦に強いことや、身体が強く相手選手に当たり負けないこと、ロングパスが上手いことなどが求められる。日本代表では吉田麻也選手など。
  • サイドバック…守備や攻撃に走り回るので、足が速くスタミナもあることが求められる。また、攻撃参加時はクロスを上げる(ゴール付近でサイドから真ん中にパスを出す)ことが多いため、クロスの精度も求められる。日本代表では長友佑都、酒井宏樹、内田篤人選手など。
  • ボランチ…守備時は相手の攻撃を遅らせたりボールを奪ったりする。攻撃時は攻撃の組み立ての起点となる。守備力があり、戦術眼に優れることが求められる。日本代表では遠藤保仁、長谷部誠、柴崎岳選手など。
  • トップ下…攻撃を操る指揮者のような存在。パス・シュート・ドリブルといった攻撃能力にくわえ、戦術眼やチームをまとめる能力も求められる。日本代表では香川真司、本田圭佑選手など。
  • 右サイド・左サイド…攻撃的選手の中でも、ドリブルが上手く、相手選手を抜けることが求められる。日本代表では原口元気選手、久保裕也、宇佐美貴史選手など。
  • トップ…相手選手との競り合いに勝って味方にボールを散らすこと(ポストプレー)や、シュートを打って得点を決めることが求められる。トップが一人のときはワントップ、二人のときはツートップと呼ばれる。日本代表では岡崎慎司、大迫勇也選手など。

一般的にサイドの選手は足が速いこと、真ん中の選手は相手に当たり負けないことが求められます。

他に、チームの陣形や戦術によっては「アンカー」「センターハーフ」「サイドハーフ」「ウィング」と呼ばれるポジションができることもあります。

 

<一言コラム> 田中マルクス闘莉王という選手を知っていますか。2010年南アフリカワールドカップで大活躍したセンターバックの選手です。彼は基本的にはディフェンスの選手なのですが、攻撃センスも抜群。2017年は36歳にしてフォワードに転向し、J2リーグでなんと年間15得点(チーム最多得点)の大活躍をしました。

サッカー用語集

サッカー観戦時によく聞く言葉(サッカー解説者がよく口にする言葉)をまとめてみました。

  • アシスト…ゴールの一つ前のラストパスのこと。アシスト数は、ゴール数と並んで攻撃選手の代表的な評価基準の一つ。
  • アタッキングサード…フィールドを3分割したときに、相手ゴールに近い3分の1のエリアのこと。
  • インターセプト…相手のパス、ドリブル中にボールを奪うこと。
  • オウンゴール…自分側のゴールにボールを入れてしまうこと。キーパーにボールを戻そうとして、キーパーが取れなかったときなどに起こる。
  • オーバーラップ…ボールを持っている味方選手を走って追い越すこと。前でパスを受けるという狙いがある。主にサイドバックの選手がサイドの選手を追い越すときに、「オーバーラップ」と呼ばれる。
  • オフ・ザ・ボール…ボールを持っていないときのこと。サッカー選手は、ボールを持っているとき(ドリブルなど)のプレーも大事だが、ボールを持っていないときのポジショニングもとても重要な要素。「オフ・ザ・ボールの動きが上手い選手」というふうに使う。
  • カウンター…ボールを奪ってすぐ攻撃に転じること。攻撃中は全選手が前寄りになるので、カウンターを受けるとピンチになりやすい。
  • クリア…相手の攻撃を寸断する目的で、ボールを大きく前に蹴りだすこと。
  • クロス・センタリング…相手ゴール付近で、攻撃のためにサイドから真ん中に向けてボールをパスすること。
  • 個の力…選手一人ひとりの個人能力のこと。ドリブルだけではなく、パスや戦術眼などを含めた総合的な能力を指す。
  • 司令塔…主にトップ下の選手で、攻撃のまとめ役のこと。
  • 数的有利…ボールの近くにいる選手の数が、味方チームの方が多い状況。2対1などの数的有利を作ることができると、とても有利になる。
  • セットプレー…コーナーキック、フリーキック、PKのこと。ボールをセットしてからプレーするため。
  • トラップ…自分に向かってきたボールを、足や胸で受け止めて適切な位置に置き、次のプレー(ドリブルやパス)につなげること。ロングパスをピタリと足元に止め落としたり、トラップの流れで相手を抜き去ったりできる選手は「トラップがうまい」と言われる。
  • パワープレー…前線に多くの選手を配置して、ロングパス主体で攻めること。
  • フィジカル…相手選手とぶつかるときの身体の強さのこと。
  • ポストプレー…相手選手との競り合いに勝って味方にボールを散らすこと。攻撃の起点となる動き。
  • ワンタッチプレー…味方からのパスをトラップせずに、そのまま(ワンタッチで)シュートまたはパスをすること。
  • ダイレクトプレー…ワンタッチプレーと同じ。

おわりに

「100回のテレビより、1回の生」という言葉もあります。ぜひ一度サッカー場に足を運んで、生のサッカーを楽しんでみましょう。どっぷりとハマってしまうかもしれません。

西村賢太『苦役列車』の感想―東大文学部卒によるレビュー

気になっていた144回芥川賞受賞作、西村賢太の『苦役列車』を読了した。一言で言えば「劣等感の文学的昇華」と呼ぶべき作品であった。

ネタバレなしのあらすじについてはAmazonのページを参照いただくとして、ここでは本作をすでに読まれた方向けの、ネタバレ含む書評を記していくのでご注意いただきたい。

あらすじ(ネタバレあり)

主人公の北町貫多が11歳のとき、彼の父親は性犯罪を犯す。11歳にして性犯罪者の息子のレッテルを貼られた彼は、社会に受け入れられる可能性を失う。15歳から親元を離れ一人暮らしをし、日給五千五百円の日雇い仕事を始める。

日給はすべて食と酒と風俗に費やし、家賃も払えずに居所を転々とする日々。

18歳の夏のある日、貫多は日雇いの現場に向かうバスの車中で日下部正二という同い年の男性と出会う。爽やかな好青年である。貫多から見れば日下部は「普通に恵まれている人間」であり、まっとうな社会の人間である。対比的に提示された「劣等者」貫多と「優等生」日下部との微妙な交流を通じ、貫多の劣等感の内実が克明に描かれていく。

作中において、貫多と日下部の友情関係は、上に凸の二次曲線のように推移する。自らの境遇をコンプレックスとする貫多には自然と友人が少なく、人と距離を詰めるのがうまくない。そこに現れた日下部は、爽やかに人の懐に入り込む。

貫多はたびたび日下部を酒・風俗に誘い、二人は交友を深めていく。しかし、そこはやはり元々の出自が違う二人。日下部は貫多の下劣な趣味に辟易したのか、次第に距離を取るようになる。

貫多は日下部との距離が遠ざかるにつれ、自らの惨めな境遇と、劣後者である自分へのコンプレックスをあらためて思い知る。貫多は自らの人生を、苦役に満ちた一本の線路にたとえ、そしてその線路上をひた走る自らを『苦役列車』にたとえる。

数年の後、日下部が郵便局員になったことを知った貫多は、これを大したことのない仕事と嘲るが、当の貫多はいまだに日雇いの人足なのである。

感想

日本文学でいえば夏目漱石や川端康成といった正統派の純文学が好みの私である。読む前は「本作はイロモノなのでは」と思っていたが、意外にも気持ちよく読めた。

ご存知のとおり、西村賢太氏は私小説作家であり、苦役列車も彼の実体験に基づいて書かれた小説。1割の話を面白くする”盛り”を除けば、9割は実話であるとのこと。

中卒・性犯罪者の息子という経歴も、西村賢太氏自身の経歴どおりである。それゆえむせかえるほど生々しく、説得力のある作品となっている。また、文章は力強く、流れが良い。

 

ちなみに、北町貫多という名前はあきらかに西村賢太をもじったものである。西を北に、村を町に変換したあたりはどうでもいいポイントだが、賢を貫に変えたところには、少し作者の意図が汲み取れる。つまり北町貫多という人物は、「賢」く生きる(=うまく立ち回る)人物ではなく、不器用な生き方を「貫」く人物として描かれているのである。

 

ストーリーは淡々と進み、意外性はほとんどない。それでも、この奇妙な小説が私小説であり、その主人公が中卒・性犯罪者の息子であるということから、やはり読者は興味を失うことなく結末までページを繰ってしまう。そこにはもちろん、西村賢太氏のリズムの良い文章力も引力としてしっかりと働いている。

今回私がこの小説を「劣等感の文学的昇華」とまとめたのは、はじめにガツンと提示された黒く重い塊のような劣等感が、西村賢太氏独特の語り口、つまり前向きの裏返しとしての鬱屈のような態度によって、どこか爽快な感じを伴いながら気体的に霧散していくからである。

 

北町貫多は、11歳にして父親が性犯罪者という惨めなスタート地点に立たされたわけではあるが、『苦役列車』においての北町貫多は全肯定的に「かわいそうな人物」として描かれているわけではない。

むしろ、北町貫多自身の人間性についても「社会の落伍者」または「クズ」としての要素が明確に、かつ繰り返し描きこまれている。たとえば、家賃を踏み倒してもアパートに住み続けることを当然の権利とでも思っているような態度。日下部の目の前で日下部の彼女を犯すことを夢想する場面。同僚への暴力。

このように北町貫多が歩む人生は、表面的に見れば、決して「不幸な境遇におかれたかわいそうな人」ではなく、むしろ「自業自得により自滅していく落伍者」である。しかしこの「業」の部分を客観的に見つめていったときに、ぼうっと北町貫多の純粋性が浮かび上がってくる。読者はこの作品で描かれる北町貫多に一次的には共感しにくいものの、不器用な自分に苦しむという点が抽出されてきて、それゆえに業から逃れられないのであるという像を見せられたときに、はたと共感してしまうのである。

 

そしてわれわれ読み手は、この私小説の主人公の北町貫多(=西村賢太)が、後に野間文芸新人賞や芥川賞を受賞し、人気作家になっていくということを、小説の外の世界の知識として知っている。

この事実があるから、われわれはこの救いようのない苦しさ・虚しさに終わっていく小説を読みながらも、その苦しみが深ければ深いほど、えもいわれぬ痛快な爽快感をおぼえるのである。

 

さて、この作品を評価しない、面白くないという人もいる。第144回芥川賞を受賞した本作であるが、選評の中には辛口のコメントもいくつかある。その批評文を引用してみよう。

高樹のぶ子:

「人間の卑しさ浅ましさをとことん自虐的に、私小説風に描き、読者を辟易させることに成功している。これほどまでに呪詛的な愚行のエネルギーを溜めた人間であれば、自傷か他傷か、神か悪魔の発見か、何か起きそうなものだと期待したけれど、卑しさと浅ましさがひたすら連続するだけで、物足りなかった。」

村上龍:

「相応の高い技術で書かれていて、洗練されているが、「伝えたいこと」が曖昧であり、非常に悪く言えば、「陳腐」である」

「物足りない」「陳腐である」と、小説、特に純文学的な小説に対する評価としてはなかなか辛(から)い言葉が使われている。

これら否定的なコメントもまた、的を射ていると思う。苦役列車という作品は読者を引き込む魅力が十分にある作品ではあるが、それ以上の深みが無いといえば無い。「中卒・性犯罪者の息子」という逆説的な”魅力”(あるいは商品価値)と、リズムの良い文章力という武器を持っているものの、そこから先に一歩進んだ「哲学的考察」「人間性の真理」であったり、「意外性」といったところで、もう少し踏み込んでくるものがあってもいいのではないかと思う。

『苦役列車』の意味

これは蛇足だが、一応本作のタイトル『苦役列車』の意味を改めて説明しておこう。

116ページの2行目~5行目にはっきりと書かれている。

そして更には、かかえているだけで厄介極まりない、自身の並外れた劣等感より生じ来たるところの、浅ましい妬みやそねみに絶えず自我を侵蝕されながら、この先の道行きを終点まで走ってゆくことを思えば、貫多はこの世がひどく味気なくって息苦しい、一個の苦役の従事にも等しく感じられてならなかった。

上でも述べたとおり、貫多は自らの置かれた惨めな境遇と、そこから抜け出せずに社会の落伍者であり続ける自らの人生を、苦役に満ちた一本の線路にたとえ、そしてその線路上を走り続ける自らを『苦役列車』にたとえているのである。

辞書で調べてみると、苦役の意味は以下のように出ている。

1. 苦しい肉体労働。
2. 懲役など、苦役⑴を伴う懲罰。

ぴったりの言葉ではないだろうか。『苦役列車』という言葉によって、西村賢太氏は、延々と続く日雇いの苦しい肉体労働だけが与えられた人生を、超越的(神的)な存在によって課された「懲罰」に見立てているわけである。

そしてその懲罰が救いのないものに感じられるほどに、われわれは西村賢太氏の現在の活躍を思い出し、半沢直樹の倍返しにも似た爽快感をおぼえるのである。

評価

ストーリー ☆☆☆☆

読みやすさ ☆☆☆☆

哲学的観察 ☆☆

芸術性   ☆☆

総評    ☆☆☆☆

 

PFP最強?井上尚弥の強さの理由と、過去の戦績を振り返る。

2018年10月現在、プロ17戦17勝15KOとほぼ完ぺきの戦績を収めている井上尚弥。2018年10月7日のバンタム級最強王者を決めるトーナメントWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)の初戦で、フアン・カルロス・パヤノに対して1R1分での圧倒的なKO勝利をおさめた。次戦は2019年春、海外でエマヌエル・ロドリゲスとWBSS準決勝(かつ世界バンタム級王座統一戦)を戦うことが予定されている。

しかし、こうした実績もさることながら、本当の意味で井上尚弥を井上尚弥たらしめ、その評価を確固たるものとしているのは、その実力であり、試合内容である。また、強気なのに謙虚であるというその人間性、そして「強い相手としか戦わない」という潔い宣言である。

今回の記事では、ボクシングの神に愛された、日本史上最高の才能と名高い(イケメン)ボクサー井上尚弥の強さと実績を振り返る。

 

強さの理由

パンチ力

ガード無視の破壊力

やはり井上尚弥といえば、圧倒的なパンチ力。「ダウン経験が無い」「KO負けが無い」という選手たちをあっさりとマットに沈めてきた剛腕が一番の特徴といえる。スパーリングではフェザー級(井上のスーパーフライの3階級上)で世界ランク1位の選手を圧倒、また別のフェザー級選手の右腕を骨折させてしまったこともあるほど。

その圧倒的なパンチ力で、ガードの上からでも相手選手をばたばたとなぎ倒してきた。

ガードの上から倒した良い試合例は、8戦目のオマール・ナルバエス戦1R開始30秒でダウンを奪った右ストレートと、9戦目のワルリト・パレナス戦2Rの左右のフックの連打。

ボディでKO

特に右拳を傷めてからの井上尚弥は、左ボディでの悶絶KOが多い。

ボディでのダウンやKOの良い例は、8戦目オマール・ナルバエス戦2RのKOパンチと、14戦目ニエベス戦5Rにダウンを奪った左ボディ、そして15戦目ボワイヨ戦3Rの左ボディ連打。

左

井上尚弥は右はもちろん、左のパンチが規格外に強い(腕相撲では右手より左手の方が強いらしい)。それゆえ左ジャブ、左フック、左ボディの威力が半端ではない。相手選手に「左ジャブが右ストレートのようだった」と言われたこともある。ここにガードの上からでも倒せてしまう右ストレートがあるので、相手としては厄介極まりない。

スピード

パンチのスピードが桁違いで、ナルバエスやパレナスといった選手が、「パンチが速すぎて見えなかった」というコメントを試合後に残している。

パンチの精度

ボディでKOを量産しているのは、パンチ力が強いのももちろんのこと、的確に効く場所に打ち込んでいるから。上記ボディでのダウン・KOシーン(ナルバエス戦、ニエベス戦、ボワイヨ戦)を見比べてみると、全て全く同じ場所に左ボディを打ち込んでいることが分かる。

またカウンターも上手く、12戦目の河野公平戦の6RのKO前にダウンを奪った左フック、15戦目のボワイヨ戦1Rにダウンを奪った左フックなどは圧巻。他にも、井上のパンチが速すぎてカウンターに見えないが、相手の動き出しに合わせて出すパンチをよく当てている。

ヒット率

井上尚弥はジャブを当てるのが非常にうまく、1ラウンドに平均9発のジャブを当てている。これは全ボクサー中で2番目の数字(1位はゴロフキンの10.4発)である。また、ボクシングの情報収集サイトCompuBoxの集計対象全ボクサーの平均4.7発の約2倍の数字である。

手数

井上尚弥は1ラウンド平均36発のジャブを放っており、これは全ボクサー中で1位の数字である。

ディフェンス

井上選手はガチでパンチを一発ももらわない。フットワークと上体の使い方が非常にうまい。また、パンチを打ってすぐに下がるという基本が体に染みついているので、とにかくパンチが顔に当たるのを見たことが無い。

試合終了後の腫れあがった相手の顔と、綺麗な井上選手の顔を見比べるだけでも、そのディフェンス技術の高さが窺える。

被弾率

井上尚弥のパンチ被弾率は全ボクサー中9位の21.2%。これはワシル・ロマチェンコ(同1位)の16.5%やギジェルモ・リゴンドー(同2位)の17.1%には劣るが、集計対象ボクサー平均の30.3%より遥かに良い数字だ。

距離感

距離感を掴むのが早く、これが攻防両面で活きている。

たとえば、バンタム級転向初戦でWBA王者獲得に成功したマクドネル戦では、1R30秒で相手の左ジャブの角度・スピード・距離を見切り、対応できると判断して一気にラッシュをかけて1R112秒でTKO勝ちしてしまった。

また、田中恒成選手とのインタビュー記事で、本人が距離感について語ったのが以下。このインタビュー記事は全体的に内容が素晴らしいので、ぜひ読んでみてほしい。

恒成 「1分半で距離をつかむ」ってどこかで読んだことがあるんですけど。距離感をつかんだとかわかったってことがあるんですか? オレもう、距離感のことが一切わからなくて……。
尚弥 あるよ。ジャブが当たった瞬間わかる。
恒成 ちょっと曲がっとったら、そこを修正するとか。
尚弥 いや、もう最初の1発でしっかり伸ばしきったジャブを当てるのね。初見の相手だったら、まずここで(と両手で目の前の空間を囲う)相手にパンチを出させて、まず確認する動作から始めて。それが終わったら、自分のジャブを当てる。そのジャブが当たったら──
恒成 ここの空間で、これ以上入らずこれ以上離れず、くらいで。
尚弥 そうそう。あとは、ガーッとくっついて、相手のパンチ力を確認して。それがだいたい1ラウンドでわかるかなって。

人間性

プロとして長く活躍するためには一番大事な要素かもしれない。マイク・タイソンを筆頭に、数々の輝かしい才能が、人間性の僅かな不和により堕落していった。

井上尚弥はこの点でも申し分なく、強気で自信満々でありながら、素直で謙虚に自らの才能を磨き続けている。

プロデビュー前

井上尚弥はアマチュア時代にも高校生にして全日本選手権を制するなどの活躍をしていた。しかしそれよりも印象的なのは、19歳の井上尚弥が、大橋ジムの先輩で現役世界王者の八重樫東をスパーリングで圧倒してしまっていたという話。

プロ3戦目で日本ランク1位を圧倒!“怪物”井上尚弥は何が凄いのか? – ボクシング – Number Web – ナンバー

「井上とは昨年、井岡一翔選手と試合をする前に何度もスパーリングをしましたが、とにかく強い。やられてしまう場面が何度もありました」

プロデビュー前の19歳が世界チャンピオンをたじろがせてしまう。大橋秀行会長が「八重樫が井上とスパーリングするときは、井上じゃなくて八重樫に作戦を与える」と言ったときは冗談かと思ったが、八重樫の話を聞くと真実味を帯びる。

八重樫東とはジムが同じなので、デビュー後もたびたびスパーリングを行っているようだが、井上が圧倒したというニュースしか見ない。たとえばこちら。

アマ7冠井上、八重樫に“判定勝ち” – ボクシングニュース : nikkansports.com

大橋会長は「採点するなら八重樫が負けている。井上はデビュー戦が終わってからすごく伸びている」と、興奮を隠しきれない様子だ。

体がまだまだ成長する19歳の時点で既に現役世界チャンピオンと対等以上に渡り合っていたというのだからすさまじい。

ライトフライ級時代

減量苦

井上はライトフライ級でプロデビューしたが、この階級は適正とはいえず、減量に苦しみ続けた。プロデビュー時から異常なほどの注目を集めてはいたものの、3戦目・4戦目はともに10Rまでもつれるなど、期待される実力に見合った圧勝劇を披露できていなかった。

世界最速6戦目の世界王者奪取

それでも確実に勝利を積み重ね、2014年WBC世界ライトフライ級王者アドリアン・エルナンデスに勝利。当時日本人男子最速の6戦目でWBC世界ライトフライ級王者となる。

6戦という圧倒的なスピードで世界王者となった井上だが、正直、ライトフライ級で戦っていた頃の井上は「なんか物足りないなあ」という印象だった。それくらい期待度が高かったということでもある。当時は井上尚弥がそれほどの圧倒劇を見せられない理由が減量苦だとはっきりとは分からなかったから、「こんなものか」と納得してしまっていた。しかし、スーパーフライ級転向後の井上は全くの別人となっていた。

スーパーフライ級時代

ライトフライ級で1度だけ世界タイトルを防衛した後、減量苦を理由に2階級一気に上げて、スーパーフライ級に参戦した。

8戦目(タイトルマッチ):オマール・ナルバエス戦

そのスーパーフライ級の初戦で名王者オマール・ナルバエスと戦うのだが、この試合で井上尚弥はとんでもない才能を世界に見せつけた。

戦前の予想はこんな感じ:

それがこうなる:

47戦でダウン経験が一度もない伝説の名王者を、たった2Rの間に4回ダウンさせたのだ。しかも、これというクリーンヒットは最後の左ボディブローだけ。それまでのダウンはすべてガードの上から、または頭をかすめるだけのパンチだった。この一戦により井上尚弥の評価は急上昇、世界のボクシングシーンにその名が知れ渡ることになった。

井上尚弥 – Wikipedia

フライ級世界王座を16連続防衛、WBO世界スーパーフライ級王座を11連続防衛中の現役世界最強と評価されていたナルバエスを一方的に打ちのめしてKO勝ちで2階級制覇を達成

マニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザー・ジュニア、ゲンナジー・ゴロフキンといった世界の超スーパースター達を抑えて井上尚弥が、ボクシング・シーン・ドットコム、セコンド・アウト・ドットコム、ファイトニュース・ドットコムといった世界的な大手ボクシング専門ニュースサイトからも2014年の年間MVPに日本人史上初めて選出された。

Superfight in the lower weight classes entirely possible

トップチャンプオンのこれほどの崩壊は、トミー・ハーンズがロベルト・デュランを打ちのめして以来だ。ナルバエスは39歳だが、今までの唯一の負けは12R判定となったノニト・ドネア戦だけだ。井上はこの試合のために2階級上げてきた上に、これはまだ8試合目でしかない。

ただ、自らのあまりの強打に右手を傷めてしまい、井上尚弥はこの試合から丸1年のブランクをとった。残念ながら井上は、この試合あたりから右拳を傷めることが多くなってしまっている。

9戦目(WBO防衛1):ワルリト・パレナス戦

スーパーフライ級第2戦目の相手はワルリト・パレナス。この2戦目でも、同じようにガードの上から左右のフックで2R1分20秒であっさりと相手を打ちのめした。

丸腰の人間(パレナス)が恐竜(井上)に挑んでいるようで、見ていて怖いくらいだった。

速すぎて見えない上に、ガードしても倒されるパンチを持っている相手をどうやって攻略できるというのだろうか…。井上尚弥は確実に無敵の最強王者への道を突き進んでいる。

10戦目(WBO防衛2):ダビド・カルモナ戦

戦前の予想は井上の超有利。

井上尚弥の世界戦勝利オッズ「1・02倍」強すぎる世界王者にブックメーカー悲鳴

1.02倍という壊れたオッズにも注目が集まった。ちなみにカルモナ勝利の倍率は17倍だった。この試合の焦点はカルモナが何秒立っていられるか、何発パンチを耐えられるかというところにあった。

その結果は:

判定までもつれこんでしまった。ナルバエス戦で傷めた右手をまた傷め、実力は大きく下のダビド・カルモナを倒すことができなかった。しかし、井上尚弥の強さは見える試合だった。中盤からはほとんど左手しか使わずに戦ったが、内容的には制圧していた。それゆえ、距離の取り方や試合の組み立て方といった別の部分の強さがよく見えた。

パンチ力が強すぎて、自らのパンチ力で自らの拳を傷めるという唯一の課題がますます浮彫となる試合だった。

11戦目(WBO防衛3):ペッチバンボーン戦

スーパーフライ級4戦目。井上にとってははっきり格下で、「ペッチ」と呼ぶ相手。ここは通過点。全階級通じて世界最強の一人と目されるローマン・ゴンザレス戦が近いと見られる中、どれだけの圧勝劇を見せられるかに期待がかかった一戦。

その結果は、10RのKO勝利。KO勝利という最低限の目標は達成したが、10Rまでかかってしまった。

またもや拳と、今度は腰も傷めていつもの強打が出ない井上尚弥だった。強打は出ないながらも、ジャブとフットワークで内容的には制圧していたことは事実。ただ、これは観るものが井上尚弥に求めている試合内容ではない。

爆発的なパワーとスピードを持つアスリートはどうしても怪我が多くなってしまうもの。しかしこの試合以降、この課題を意識し始めたのか、練習や試合において、なるべく怪我をしないことを意識するようになってきたように見える。

12戦目(WBO防衛4):河野公平戦

スーパーフライ級5戦目は、井上尚弥が世界王者になってから初めての日本人ボクサーとのタイトルマッチ。河野公平も世界王者の経験のある選手だが、井上尚弥と戦うにあたっては「エリート vs. 雑草」とも言われた。

戦前の評価では、井上尚弥の勝利は当たり前。河野公平がボクサー人生の晩年に破壊されてしまうのではないかとの心配の声が多かった。

結果は、6Rに完璧な左フックのカウンターが入り、過去KO負けを喫したことがなかった河野公平がTKO負け。全く危なげのない試合だった。河野公平の逃げずに正面から打ち合う姿は日本男子らしくてかっこよかったが、正直あまりに実力に差があったため、ボクシングの試合としての面白さは微妙。ただただ河野選手の顔が赤く腫れて痛々しかった。

この試合の収穫は、何と言っても毎試合故障していた拳や腰の故障が無くなったこと。井上尚弥はこの試合から、唯一の弱点であった故障癖が無くなった。

ロマゴン判定負け

実は、この河野公平戦から少しして、井上尚弥にとっては衝撃的な大ニュースがボクシング界を駆け巡った。それは現役ボクサーのパウンド・フォー・パウンド(階級無視の最強選手ランキング)1位と名高かったローマン・ゴンザレスの判定負け。相手はシーサケット・ソー・ルンヴィサイ。シーサケットが当時それほど評価の高い選手ではなかったため、このニュースは余計に世間を驚かせた。

…本音を言えば、ロマゴンの階級アップによる戦力の衰えは、冷静なボクシングファンの目には明らかだった。ロマゴンに商品価値があるうちに早く井上と対戦してほしいと、井上ファンはみんな思っていただろう。それでも、ほとんど神聖化されかけていたビッグネームの初の敗戦は世界を驚かせた。

井上尚弥としては、最強王者ロマゴンを倒してその名を世界に轟かせることを目標にずっと頑張ってきていたので、目標の一つを失ってしまう形となった。

13戦目(WBO防衛5):リカルド・ロドリゲス戦

この試合については何も言うことなし。またもやほぼ左手1本だけで相手を制圧。3R開始1分、左フックによるKO勝利。リカルド・ロドリゲス選手が辛そうすぎて、ボクシングの試合というよりは中世の処刑か何かを見ているようだった。

壊しやすい右手をあまり使わないように意識しているように見えた。

14戦目(WBO防衛6):アントニオ・ニエベス戦

井上にとっては記念すべきアメリカデビュー戦。実力者の集まるスーパーフライ級にフォーカスしたSuperflyという興行で、ローマン・ゴンザレス vs. シーサケット・ソー・ルンヴィサイの再戦の前座として行われた。相手は過去ダウン経験が無いものの、それほど強い選手ではなく、井上選手にとってはアメリカのボクシングファンに顔見せするための試合だった。

結果は6R終了TKO勝利。井上選手としては、できるだけ派手にKOしてアメリカで少しでも名を上げたかった試合。それゆえ気持ちが先行しすぎて大振りが多く、6Rまでかかってしまった。しかし、5Rには左ボディでニエベスにとってプロ人生初のダウンを奪ったり、逃げ惑うニエベスに「かかってこい」と挑発するなど、一応の見せ場は作った形となった。

15戦目(WBO防衛7):ヨアン・ボワイヨ戦

中世の処刑2。フランス人のお小遣い稼ぎと、井上尚弥の空き期間の調整がたまたまマッチングしただけのような試合だった。1Rの完璧なカウンターの右フックと、3Rの左ボディによるKOは美しかった。ちなみにこの試合では、強烈なボディを喰らったボワイヨの「うっ」といううめき声がテレビ越しに聞こえてきた。

1つ前のニエベス戦と、このボワイヨ戦で井上尚弥が見せた完璧な左ボディ。井上選手はこれを大きな武器として、今後もボディブローでのKOを量産していくと思われる。

バンタム級時代

16戦目(WBA世界挑戦):ジェイミー・マクドネル戦

井上尚弥にとってのバンタム級初戦であり、世界3階級制覇挑戦となる試合。久々になかなかの強者と対戦することになったので、世界的にも注目度は高く、全米でも生中継された。昔から、「スパーリングではもっと強い」と言われ続けてきた井上選手であるが、バンタム級でついにその力を解放するかどうかという試合。

結果、見事1R112秒でレフェリーストップによるTKO!圧巻の勝利となった。開始30秒でマクドネル選手の左ジャブの角度・スピードを見切り、怖くないと判断して1Rから倒しにかかった。するとすぐに左フックを相手のおでこにカツンとあててぐらつかせ、追撃の左ボディでマクドネルが一度目のダウン。そこからは相手の反撃を気にしない台風のようなラッシュでレフェリーストップに追いやった。

また、故障がちだったのでスーパーフライ級では控えていたと思われた右拳の封印を解き、遠慮なく使っていたので、久々にその実力が存分に発揮された試合となった。

身長差が10センチ以上もあるという点も注目ポイントとされたが、長身選手への対応は問題無かった。マクドネル選手はイギリスの選手なので、近年ボクシング熱が高まっているイギリスのボクシングファンに井上選手を紹介するという意味でも、最高の結果となった。

17戦目(WBSSバンタム級初戦):フアン・カルロス・パヤノ戦

世界中のボクシングファンが注目するWBSSの初戦で、井上尚弥選手は元WBAバンタム級スーパー王者のパヤノ選手と対戦。

わずか1R1分であっさりとKO勝利をおさめてしまった。井上尚弥選手が出したパンチはアッパー1発と、KOを生んだ左右のワンツーで計3発のみ。たった1発のパワーショットで老練のパヤノ選手を沈めてしまった。

 

井上尚弥の将来

WBSSの出場者として

井上尚弥は、2018年10月7日に開幕したWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)のバンタム級最強選手を決めるトーナメントに出場し、初戦でフアン・カルロス・パヤノ選手に勝利している。

WBSSの参加選手は、各団体の王者であるWBAスーパー王者ライアン・バーネット、WBA王者井上尚弥、WBO王者ゾラニ・テテ、IBF王者エマヌエル・ロドリゲスの4人にくわえ、ジェイソン・モロニー、ミーシャ・アロイヤン、ノニト・ドネア、フアン・カルロス・パヤノの4選手の合計8人である。

井上尚弥選手は、次戦は2019年春、海外でエマヌエル・ロドリゲスとWBSS準決勝を戦うことが予定されている。ロドリゲス選手の評価は高く、この試合が事実上の決勝戦であるとされている。

さらに勝てば決勝でバーネット―ドネア戦の勝者対テテの試合の勝ち上がり選手と試合をすることになる。

希望を言えば、準決勝でロドリゲス選手、決勝でドネア選手と戦う流れであれば盛り上がるだろう。しかし、実際にはドネア選手の勝ち上がりは有望視されておらず、決勝はバーネット選手またはテテ選手と戦うことになる可能性が高い。

井上尚弥選手はこのトーナメントを制覇することができれば、3団体統一王者となる。さらに、弟の井上拓真選手が残りのWBCバンタム級王座への挑戦権を持っており、井上拓真選手がWBC王座を獲得すれば、バンタム級全4団体を兄弟で独占することになる。

バンタム級王者として

井上選手はバンタム級で防衛記録を作りたいと話している。父の真吾氏も「バンタム級は尚弥の適正階級」と昔から語っている。バンタム級でWBSSを制覇できれば、その先しばらくは、バンタム級に居座って長期政権を築くのではないだろうか。

先日山中慎介選手のボクサー人生の晩年を汚して大顰蹙を買ったルイス・ネリ選手もバンタム級にはいるが、日本ボクシング界から追放されたネリ選手との試合が実現するかどうかは微妙なところである。もし対戦した暁にはぜひともKO勝利をしてほしい。

PFP最強王者として

現在、PFP(パウンド・フォー・パウンド)で最強と目されているのはワシル・ロマチェンコである。ロマチェンコを知らない人はぜひYoutubeで彼のKO集を見てもらいたい。異次元のスピードとテクニックである。

井上尚弥は2018年9月現在、各種のボクシング専門誌でPFPトップテン(PFP5位~6位)に位置づけられることが多い。彼は現役のうちにPFPトップに君臨することができるだろうか。少なくとも、手を伸ばせば届きそうな位置まで来ていることは間違いない。

サッカー四大リーグの特徴とレベル、CL・ELの仕組みの基本を徹底解説【2019年版】

 

日本代表選手が何人も海外リーグで活躍する時代になり、海外リーグへの興味は高まる一方だ。しかし、海外リーグといってもいっぱいあって何がなんだかよく分からないという人も多い。そこで、今回の記事ではそうした初心者の方向けに、サッカー欧州四大リーグの特徴やレベル、仕組みについて徹底解説する。

サッカー観戦を楽しむための超基本のルール・用語説明も書きましたのでぜひあわせてどうぞ!

 

四大リーグ、CL・ELとは?

四大リーグ

まず前提として、サッカーにおいてはヨーロッパが中心である。確かに、ワールドカップではブラジルやアルゼンチンといった南米の国も、ヨーロッパの強豪に負けないくらい強い。しかし、お金が最重要の要素を占めるプロのクラブチームにおいては、資金力のあるヨーロッパが強いのだ。

四大リーグとは、そんなヨーロッパの中でも人気・実力の面で抜きん出ている4つのリーグを指す。

  • リーガ・エスパニョーラ(スペイン)
  • ブンデスリーガ(ドイツ)
  • プレミアリーグ(イングランド)
  • セリエA(イタリア)

オランダやフランスといった国はワールドカップではお馴染みの強豪だが、クラブチームのレベルではこれら4リーグと比べて一段落ちる。この一番の要因としては資金力が挙げられる。オランダは国の規模が小さく、資金力に劣る。フランスはここ数年、PSG(パリ・サンジェルマン)が石油系のオーナーをバックに潤沢な資金力を得て世界中のタレントを買い漁り、爆発的に力をつけている。2018年ロシアワールドカップで19歳ながら大活躍をしたキリアン・ムバッペや、ブラジルを背負って立つ天才ネイマールもPSGに所属している。

リーグ戦なので仕組みは基本的にJリーグと一緒で、毎週土日に試合が開催され、1年かけてホーム&アウェイの総当り戦が行われる。たとえばブンデスリーガには18チームが在籍しており、それぞれのチームが自チーム以外の17チームとホーム&アウェイで戦うため、17×2=34試合を年間で戦うことになる。Jリーグは毎年早春(3月初め)~晩秋(11月下旬)にかけて行われる一方、海外リーグは毎年9月から翌5月にかけて行われるという違いがある。

かつては「三大リーグ」と呼ばれていた

2010年頃まではプレミアリーグ、セリエA、リーガ・エスパニョーラを合わせて「三大リーグ」と呼び、ブンデスリーガはこれらに続く第四のリーグと目されていた。しかし、世界的な不況の中でも堅実な経営を続けてきたブンデスリーガが力を増してきて、一気にブンデスリーガの時代が到来し始めている。

CL・EL

CLはチャンピオンズ・リーグ、ELはヨーロッパリーグのこと。前年の欧州各国のリーグ戦で上位を獲得した数チームだけが集まって行われる、クラブレベルでのヨーロッパ最強決定戦。CLが上位の大会で、ELはCLに出られなかったチームが出場する下位の大会。

CLはまさに夢のような大会であり、その年の世界最強のクラブチームを決める最も栄誉ある大会となっている。

※CL・ELについてのより詳細な仕組みの説明はページ下部に記載

リーガ・エスパニョーラ(スペイン)

略称:リーガ  スペインなので、英語のリーグ(league)ではなくスペイン語のligaから。スペインではラ・リーガ(La Liga)と呼ばれる。英語でいうとThe Leagueといった意味。

特徴

圧倒的な人気と資金力を背景に世界中から才能をかき集めるバルセロナ(バルサ)とレアル・マドリードの2チームが牽引するリーグ。この2強は毎年チャンピオンズ・リーグでも決勝辺りまで絡んでくる、世界最高のクラブ。それゆえリーグの優勝争いはほぼこの2強に絞られており、リーグ戦の結果占いはつまらないといえばつまらない。近年はアトレティコ・マドリードの躍進が著しく、2013-2014シーズンは10年ぶりに2強であるバルサとレアル以外のチームがリーグ優勝を果たした。これら3チームのCL(チャンピオンズ・リーグ)での活躍に加え、中位チームがしっかりとEL(ヨーロッパ・リーグ)で活躍しており、近年のリーガ・エスパニョーラは世界最高のリーグと目されている。

ヨーロッパ全体の視点で見ても、バルセロナとレアルマドリードは最強と見られている。2019年の欧州のクラブシーンは、前年に引き続きリーガ・エスパニョーラのバルセロナとレアルマドリードの2強の存在感が大きい。

バルセロナはポゼッション(ボール支配率)を高めて短いパスを繋いでゴールに向かっていく華麗なスタイルをとる一方、レアルマドリードは身体的な強さ(速さ・高さ・強さ)を活かした迫力あるカウンターアタックを見せることが多いという特徴がある。

リーガ・エスパニョーラでは攻撃的な戦術をとるクラブが多く、FWの得点数がインフレする傾向にある。特に、メッシが2011-2012シーズンに打ち立てたリーグ37試合50ゴールの金字塔は、もう二度と更新されることはないのではないかと思われるほどの大記録だ。

どちらかといえばフィジカル(身体的強さ)よりもテクニック重視の傾向にあり、試合は華麗で楽しく観られるものが多い。小柄な選手でも活躍できる風潮がある。下部組織のスカウティングと育成がしっかりとしており、特にバルセロナは継続して下部組織(カンテラ)から世界最高の才能を輩出し続けている。現在日本のFC東京(→Fマリノス)や年代別日本代表で活躍する久保建英選手がバルセロナの下部組織に所属していたことも有名。

経営面は国の状況に並行して不健全で、5年前に「余命5年」を宣告した記事まである。

「余命5年」 “ 死”に近づくリーガ・エスパニョーラ | フットボールチャンネル | サッカー情報満載!

1部20クラブの負債総額は36億ユーロとなっていますが、その額は日増しに上昇しています

日本人選手

かつては城彰二、大久保嘉人、中村俊輔、家長昭博、指宿洋史、ハーフナー・マイクといった日本を代表する才能をもった選手たちがリーガ・エスパニョーラに在籍したが、誰も成功することはできなかった。

2019年2月現在は、乾貴士がアラベスに、柴崎岳がヘタフェに在籍し、奮闘している。

乾は2015年にSDエイバルに移籍して以来、リーガ・エスパニョーラでプレーしている。2015年から2018年まで所属したエイバルでは、絶対的なエースとまでは言えないとしても、ある程度の信頼を得て活躍を続けていた。その後、2018-19シーズンからは同じリーガ・エスパニョーラのレアル・べティスに移籍したものの、出場機会は減少。2019年からはアラベスに移籍している。

柴崎岳は、2017年初めからスペインでプレーしている。しかし体調不良や怪我の影響もあり、まだ継続的な活躍はできていない。

乾・柴崎両者ともテクニカルでリーグの特徴にあった選手なので、より一層の活躍が期待されている。

注目選手

何と言ってもバルセロナに所属するメッシ。そのほかにも人気・実力ともに超一流の選手たちが2強のバルセロナとレアルマドリードに流れ込んでいる。FW以外でも、レアル・マドリードのモドリッチ等、涼しい顔で超絶テクニックを見せるテクニシャンが多い。

バルセロナとレアル・マドリードはリーグ戦で必ず年2回、その他カップ戦やチャンピオンズリーグでもたびたび対戦するのだが、この試合はエル・クラシコまたはクラシコと呼ばれ、そのシーズンの世界最高峰の試合となる。圧倒的なテクニック、優勝争いを決定づけることになるライバル同士の直接対決といったサッカーの髄が観られる試合である。

リーガ・エスパニョーラの今後

2019年現在、リーガ・エスパニョーラの2強クラブの強さが継続するかどうか、やや不安なところがある。その理由の一つは、メッシの加齢と、クリスティアーノ・ロナウドのセリエAユベントスへの移籍。超人的な活躍を続けてきた二人がリーガ・エスパニョーラでの活躍を終えてしまったとき、新たな輝きを発掘できるかどうかが人気を維持できるかどうかの鍵となるだろう。

また、二つ目の理由は、2010年前後のバルセロナ黄金時代を牽引したグアルディオラ監督が、2019年現在はプレミアリーグに在籍していること。サッカーの新たな時代・戦術を作ってきた名監督がプレミアリーグにいる以上、新時代のスターが彼のもとでのプレーを求めてプレミアリーグに移籍することも考えられる。

今後、リーガ・エスパニョーラのバルセロナとレアル・マドリードがサッカー界を引き続き引っ張るのか。それともプレミアリーグのマンチェスター・シティを中心とする強豪チームが新たな時代を創るのか。ヨーロッパサッカー界の一つの見どころである。

ブンデスリーガ(ドイツ)

略称:ブンデス

特徴

世界一の観客動員数と健全な経営により、急激に実力と名声を伸ばしてきているリーグ。かつてはブンデスリーガは「三大リーグ」に次ぐ第四のリーグと言われていたが、近年はバイエルン・ミュンヘンとドルトムントの活躍により、そうした印象はすっかりなくなり、「四大リーグ」という言葉が定着した。

現に、2017年3月17日発表のUEFAカントリー・ランキングでは、リーガ・エスパニョーラに次いで2位につけていた。2018年4月11日付のランキングでは、1位スペイン、2位イングランド、3位イタリア、4位ドイツ、5位フランス、6位ロシア、7位ポルトガルと、ドイツが2位から4位に後退してしまったが、2位~4位のUEFAカントリー・ランキングの評価点は微差である。

ブンデスリーガは世界最高の身長を誇るゲルマン系民族を中心に選手が在籍するので、全体的に大柄な選手が多い。一般的に、大柄な選手は空中戦に強い一方で足元のテクニックや一瞬のスピードに欠けることが多いので、小柄な日本人選手がその弱みをついて活躍しやすいリーグとなっている。また、真面目な民族性も日本人にあっているようで、「日本の有望な選手はとりあえずドイツに移籍する」という定番の流れが出来つつある。

ブンデスリーガは「バイエルン・ミュンヘン一強」というイメージがあり、ドイツ人であればバイエルンに所属して活躍することは憧れとなっている。たまにドルトムントやヴォルフスブルクといったチームがリーグ優勝することはあるが、そうしたチームの有力選手をバイエルンがかっさらってしまい、翌年にはバイエルン一強に戻っていることが多い。

日本人選手

上で紹介した特徴から、非常に多くの日本人選手が今までブンデスリーガに在籍してきた。

ドイツ・ブンデスリーガに所属する日本人サッカー選手一覧 – Wikipedia

2019年2月現在、ブンデスリーガに所属している日本人選手は長谷部誠、宇佐美貴史、大迫勇也、原口元気、浅野拓磨、久保裕也。それから2部には酒井高徳、宮市亮、井手口陽介等。ほとんどそのままで日本代表になりそうなメンバーだ。

長谷部誠はドイツ経験が長く安定した戦力に数えられており、原口元気、大迫勇也も得点数は伸びないながら、まずまずの活躍を見せている。

かつてドルトムントに所属した香川真司はブンデスリーガ屈指の名選手に数えられるほどの活躍を見せており、2010/11シーズン、2011/12シーズンのドルトムントのブンデスリーガ連覇の中心選手として躍動した。

宇佐美貴史は若干20歳のときにバイエルン・ミュンヘンに所属し、CL決勝の舞台にベンチ入りしたものの、出場機会はなくチームもPK戦の末に敗れている。継続的な活躍はできておらず、監督に怠惰な練習姿勢を公然と指摘されるなど、苦境が続いている。

ブンデスリーガに日本人GKがいないのが残念なところだが、もし日本人GKがドイツに移籍したあかつきには、ぜひブンデスリーガ所属日本選手vs.ブンデスリーガ選抜で親善試合が行われて欲しいと思う。

注目選手

バイエルン・ミュンヘンには世界最高の才能が集まっている。特に、GKのマヌエル・ノイアーは近年最高のGKとの呼び声が高く、GKなのにドリブルで相手選手を抜いたり、ハーフウェイラインを越えるような弾丸のスローイングを見せたりといった魅せるプレーも多い。

また、2014年ブラジルワールドカップで日本代表を苦しめたコロンビア代表のハメス・ロドリゲスや、2018年ロシアワールドカップで日本代表が対戦したポーランド代表のレバンドフスキがFWとして在籍する。レバンドフスキはここ数年乗りに乗っており、得点を量産しまくっている。

その他、ドイツ代表のマルコ・ロイスや、21歳の若き才能、ルカ・ヨビッチなどが活躍している。

香川真司の所属していたドルトムントには、毎年のように若い選手が補強されてきて、しかも抜群の活躍を見せてバイエルンやバルセロナ、あるいはマンチェスター・シティやユナイテッドといった超一流クラブへと巣立っていく。

プレミアリーグ(イングランド)

略称:プレミア

特徴

上位から下位チームまで「弱い」チームがなく、毎試合盛り上がることから世界最高のリーグというイメージが強いプレミアリーグ。その要因はメディア戦略の成功であり、2000年代から放映権料の収益で他国を突き放し、その収益の分配によって下位チームも戦力補強ができるシステムが作られていた。

「テクニック勝負」のリーガ・エスパニョーラに対して、「フィジカル勝負」のプレミアリーグというイメージがある。とにかく前にボールを蹴って、身体能力(速さ・強さ・高さ)を活かして勝負する。迫力があり、時にはサッカーではなくラグビーを見ているのではないかと思うほどだ。最近は、それほどフィジカル重視という印象も薄れてきたが、やはりリーガ・エスパニョーラと比べると違いは感じる。

プレミアリーグには「ビッグ4」と呼ばれるクラブが存在する。チェルシー、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッド、リヴァプールだ。これらのクラブは伝統的に人気・実力が抜きん出ており、世界的に見ても熱心なファンが多い。日本でも、昔から熱心に海外サッカーを見ている人の多くはこの4クラブのどれかのファンであるという印象がある。

近年はビッグ4が実力的に他のチームを圧倒するというわけではなくなってきている。現に、2015/2016シーズンの上位3チームであるレスター、トッテナム・ホットスパー、マンチェスター・シティはいずれもビッグ4には数えられていないクラブだ。トッテナムとマンチェスター・シティの2チームは2019年現在も優勝争いをしており、継続的に活躍している。

日本人選手

かつては稲本潤一、川口能活、中田英寿、宮市亮、李忠成、香川真司といった名だたる名選手がプレミアリーグに所属してきたが、いずれも納得のいく活躍ができたとはいえない。香川真司はマンチェスター・Uで一定数の試合に出場したが、ドルトムント時代ほどの輝きは見せられず調子を落とし、移籍は失敗だった(少なくとも成功ではなかった)と言われている。

現在は吉田麻也(サウザンプトン)、岡崎慎司(レスター)、武藤嘉紀(ニューカッスル・ユナイテッド)の3選手がプレミアリーグに所属している。吉田麻也は不動のレギュラーではないが、忘れ去られもせず、まずまずの活躍をしている。DFが海外リーグでレギュラーをとるのは特に難しいとされる中で、プレミアリーグで継続的に試合に出ているのはそれだけで快挙と言っていい。2016/17シーズン吉田麻也は躍動し、カップ戦での決勝進出の立役者と言われるほどの大活躍を見せた。

岡崎慎司は、なんといっても移籍初シーズンとなった2015/16シーズンのレスターの奇跡のプレミア優勝が話題となった。この優勝を牽引したのはヴァーディ、マフレズ、カンテといった選手たちであり、岡崎慎司は「いないと困る」という存在にはなりきれなかった(それでもほぼレギュラー扱いだったが)。2015/16シーズンのレスターの動向についてはレスター奇跡の優勝達成!に詳しくまとめたので見て頂きたい。

武藤嘉紀選手はベンチや後半途中からの出場が多く、今後さらなる奮闘が期待される。

注目選手

今、注目の選手は、トッテナムの快進撃を牽引するイングランド代表の若き国産FWハリー・ケインと、「エジプトのメッシ」と呼ばれるリヴァプールのFWモハメド・サラー。リヴァプールは2018年、サラーのおかげでCL決勝まで進出した。

くわえてレスターの快進撃に貢献してチェルシーに移籍し、「地球の三割は彼がカバーしている」と言われるカンテや、アーセナルに所属するパス・アシストの天才メスト・エジル。マンチェスター・ユナイテッドには将来のバロンドール候補とうたわれたポール・ポグバ。マンチェスター・シティにはセルヒオ・アグエロやレロイ・サネがいる。

セリエA(イタリア)

読み方:セリエアー  イタリア語なので「セリエアー」と読まれる。間違っても「セリエエー」と読まないように注意したい。

特徴

セリエAは、1990年代には世界最高のリーグだった。この頃はユヴェントス・ミラン・インテルのビッグ3が欧州サッカー界の中心に君臨していた。そのため、日本代表の本田圭佑も小学生時代の卒業文集で「セリエAに移籍すること」を夢に挙げていた。(ご存知のとおり、後に本田圭佑はミランに移籍してこの夢を叶えている)

2010年代前半には、ユヴェントス以外の2チームのミランとインテルは没落してしまい、セリエA全体としてもかつてほどの人気や実力が保てない状態が続いていた。2013年頃は最悪で、セリエAを外して残りの3リーグで「三大リーグ」と呼ぶのがふさわしいのではないか、とさえ囁かれていた。2014/15シーズンのユヴェントスのCL決勝進出によりそうした声はかき消され、さらに近年のナポリやローマのCLでの活躍により、セリエAは復調傾向と見られている。

1950年代・60年代はカテナチオと呼ばれる堅い守備からカウンターを狙う戦術が流行した。これがイタリアサッカーの伝統として残り、今もイタリアサッカーといえば「堅い守備」「ウノ・ゼロ(1-0)の美学」と表現されることが多い。一方、現代に目を転じると、2014/15シーズンにユヴェントスが稀代のMFピルロを中心に攻撃的なサッカーを繰り広げ、CL決勝進出を果たしたこともあり、そうした「守備重視」の印象は薄れ始めている。ただ、現代でもFWの得点数が他のリーグより低く抑えられる傾向は残っている。

日本人選手

三浦知良、中田英寿、名波浩、中村俊輔、柳沢敦、小笠原満男、大黒将志、森本貴幸、本田圭佑、長友佑都といった名選手たちがかつてセリエAに在籍した。この中ではっきり活躍したと言えるのは中田英寿のみ。

本田圭佑はミランの10番を背負いながらも、結局最後まで期待に沿うほどの活躍をすることはできず、メキシコのパチューカへと移籍していった(2019年現在はオーストラリアにて活躍中)。

長友佑都はファンに愛されて長くインテルで活躍したが、2014年ブラジルワールドカップでグループリーグ敗退に終わってからは、少し燃え尽きてしまったのか調子を落として準レギュラー状態となってしまい、2018年初めにはついに出場機会を求めてトルコのガラタサライへとローン移籍した。

注目選手

有名選手では、ナポリからユベントスに移籍したFWゴンサロ・イグアインがいる。イグアインは、ケガが多いために実力の割に評価されることの少なかったストライカーだが、2016年は継続的に試合に出場し、爆発的な結果を残した。

2018年は、ドルトムントの香川真司選手の元同僚で、ラツィオに移籍したチーロ・インモビーレ選手、長友選手の元同僚でインテルで活躍するマウロ・イカルディ選手、ユベントスの若き天才パウロ・ディバラ選手などがゴールを量産して活躍している。

四大リーグの今後の展望

現在、世界最高峰のチームといえば、リーガ・エスパニョーラのバルセロナとレアルマドリードである。それを追いかけるのが、プレミアリーグの上位勢(マンチェスター・シティ、チェルシー、リヴァプール、トッテナム・ホットスパー、マンチェスター・ユナイテッド)や、ブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘン、セリエAのユベントスとナポリ、そしてリーガ・エスパニョーラのアトレティコ・マドリードといったクラブである。

しかし、リーガ・エスパニョーラが今後もずっと世界最高のクラブを擁し続けるかどうかは分からない。クリスチアーノ・ロナウドはユヴェントスへと去り、さらにメッシももう若いとはいえない。ネイマールやムバッペはPSGにいる。また、世界最高の監督と名高いグアルディオラ監督は、マンチェスターシティにいる。世界最高の才能が全員リーガ・エスパニョーラに集結していた時代は終わり、いまは世界各国のリーグに煌めく才能が点在している。

最も健全な経営を行っているドイツ・ブンデスリーガは、ドルトムントやシャルケといった二番手・三番手のチームがよりブランド力を築ければ、世界最高のリーグへと成長していくだろう。サッカーの熱心なファンが非常に多く、また国の経済力も強いドイツのブンデスリーガは2020年代以降の覇権を握っているかもしれない。

これら四大リーグにくわえ、近年成長著しいのがフランスのリーグ・アンである。パリ・サンジェルマンが巨額の移籍金を支払ってバルセロナからネイマールを強奪したのは記憶に新しいが、このチームにはその他にもムバッペ、カバーニ、ディ・マリアといった超有名選手が数多く在籍する。また、オリンピック・マルセイユでは現在、日本代表の右サイドバック酒井宏樹が獅子奮迅の活躍を見せている。

チャンピオンズリーグ(欧州全域)

略称:CL(シーエル)

CLの仕組み

参加32チームを、4チームx8グループに分ける。グループごとに総当たり戦(グループリーグ)を行い、上位2チーム(8グループあるので合計16チーム)が決勝トーナメントに進む。この16チームでトーナメント戦を行って優勝チームを決める。

基本の仕組みはワールドカップと同じになっている。

出場クラブの決定方法

参加対象国は実に54カ国もあるようだが、実際に本戦に出場するのはスペイン・ドイツ・イングランドから4チーム、イタリア・ポルトガル・フランスから2~3チーム、ロシア・オランダから1~2チーム、ウクライナ・ベルギー・トルコ・ギリシャから1チーム、スイス・オーストリア・チェコ・ルーマニア・イスラエル・キプロス・デンマーク・クロアチア・ポーランド・ベラルーシ・スコットランド・スウェーデンから0~1チーム程度、あわせて32チーム。その他の国のチームは予選で敗退してしまって、本戦に出てくることはあまりない。これらの国別の出場枠数は、過去のCL・EL出場チームの成績によって決まるUEFAランキングのカントリーランキングによって決まっている。

また、こうして決まった各国のCL出場枠の中にどのクラブチームが入れるかは、前年の欧州各国の自国リーグの成績によって決まる。たとえば、2015/16シーズンのプレミアリーグの1位~4位はレスター、トッテナム・ホットスパー、マンチェスター・シティ、アーセナルとなっている。この場合、翌シーズンのイングランドからのCL出場チームはこれら4チームということになる。

このように、前シーズンの各国リーグのチャンピオンチーム達が集まって優勝を競う仕組みになっているため、「チャンピオンズ・リーグ」と呼ばれているのだ。

CLっていつの間にやってるの?

「CLに出てるチームって、自国のリーグ戦もあるのにいつの間にCLに出てるの?」と思う人も多いだろう。正解は「水曜日」。リーグ戦は基本的に土日に行われるので、リーグ戦とリーグ戦の合間の水曜日に試合を行うのだ。ただ、アウェーゲームのときはヨーロッパを股にかけてアウェーまで遠征をして試合をして、帰ったら週末には自国でリーグ戦という忙しすぎる日程になっている。

ちなみに、CLの試合自体は、グループリーグは2週間~3週間に1回のペースで行われる。

W杯より権威あるCL?

W杯が圧倒的な人気を誇る日本にいては信じられないかもしれないが、欧州のサッカーシーンにはW杯よりもCLを優先して考える選手もいる。サミュエル・エトオなどは、代表戦に選出されて試合が増えてコンディションを落とすのが嫌で、一時期代表を引退していたほどだ。

もちろん、W杯で優勝するというのは、サッカー選手にとっては子どものころからの一番の夢に違いない。

しかし、クラブが金で選手をかき集めることが当たり前となっている現代においては、W杯決勝よりもCL決勝の方が純粋にサッカーとしてのレベルが高いのも事実である。CL決勝戦には、その年の最高の選手たちが出場し、1年間リーグ戦を戦って深まった戦術的連携を披露する。その年の世界の最先端のサッカーがそこにあるのだ。

W杯は夢の舞台。CLは最高峰の舞台。どちらが上、というのは人それぞれ違うが、こうした違いがあることは確かだ。

ヨーロッパリーグ

ELは、CLの下位にあたる大会で、各国リーグからCLに出場できなかったチームのうち上位のチームが集まって争う大会。したがって、「EL優勝」と言われても、正直言ってどう捉えていいのかよく分からないという面がある。たとえば、EL優勝回数が最も多いのはスペインのセビージャで4回だが、そう言われても「えっすごいね…ん?すごいの?セビージャって強いの?弱いの?」と思ってしまうかもしれない(十分強いのだが)。

ELの結果を見て分かることの一つは、EL決勝にチームを送り込む国のリーグは中位層が厚いということだ。たとえば、ここ4年間でEL決勝に進んだ8チームのうち実に4チームをスペイン勢が占める一方で、ドイツブンデスリーガからは1チームもEL決勝には進んでいない。この結果から分かることは、スペインのリーガ・エスパニョーラは、バルセロナやレアル・マドリード、アトレティコ・マドリードといったCL常連勢だけでなく、その下の中位層グループもしっかりと実力を持っているということだ。一方、ブンデスリーガの中位層グループはEL決勝に進めるほどの力がなく、ブンデスリーガは中位層の実力がやや劣るということが分かる。

 

サッカー観戦を楽しむための超基本のルール・用語説明も書きましたのでぜひあわせてどうぞ!

 

仕事が楽しくない人へ:良い仕事とは何か。なんのために、どこで働くべきか。

仕事は好きか

仕事は楽しいですか?

楽しいと答える人は、恵まれていますね。

でも、人間は自己肯定しがちな生き物です。本当は楽しくなくても、楽しいと答えてしまう人もいます。質問を変えてみましょう。

平日と休日、どちらが好きですか?

仕事が楽しいと答える一方で、休日の方が好きと答える人も少なくないと思います。休日が好きというのは、仕事が無い方が嬉しいということです。

この人にとって、ほんとうに仕事は楽しいのでしょうか。ほんとうは、仕事は楽しくないし、できればやりたくないのだけど、不満というほどでもないので、一応「楽しい」と言っているだけなのではないでしょうか。

宝くじが当たっても働くか

あなたは、宝くじが当たっても働き続けますか。宝くじが当たって、働かなくてもよくなったら、それでも仕事を続ける人はどれくらいいるでしょうか。

定年退職後も働くか

あなたは、定年退職後も働き続けたいですか。定年退職しても働き続ける人はどれくらいいるでしょうか。

これらの質問に対する答えによっても、自分がほんとうに仕事を楽しいと思っているかどうかが測れます。

休日数を選べるとしたら

一週間のうちの休日数を自由に決められるとしたら、何日に設定するのが良いでしょうか。

人はあまり休みが多すぎても堕落して幸せの質が滑落していきます。かといって、一週間に5日8時間働くというのは、幸福のバランスからすれば義務の量が多すぎるように思います。

国は、戦争に勝ち国民を守るため、国民を最大限働かせ、生産性を高め国力を強めるようにしてきました。でも、現代はもうその必要はないのだとしたら、人が最大の幸せを感じるためには週休は何日がいいのでしょうか。

こういう風に考えていったとき、「出勤日は少ない方がいい」と思う人ほど、仕事というものに対する耐性が低いです。仕事によってストレスを溜めやすいということでもあります。こういう人は、慎重に仕事を選ぶ必要があります。

では、どのようにして仕事を選べばいいのでしょうか。

仕事は目的か手段か

仕事には、「目的性」と「手段性」があります。

目的性の高い仕事

「仕事が目的」の人にとっては、仕事は楽しくて楽しくてしょうがないものです。

ぼくは、塾講師のアルバイトをしていたときはそうでした。バイトが楽しみで、うきうきしながらバイトに行っていました。バイトに行って授業をすること自体が目的で、それによってお金が得られることは副作用に過ぎませんでした。なので、コマが無くても塾に行き、バイト代が出なくても自主的に補講をしました。何十連勤もしていたように思います。塾講師時代のぼくにとって、バイトはお金を稼ぐ手段ではなく、それ自体が目的と化していました。

「仕事が目的」の人は、仕事それ自体が楽しくて、ほかに何のメリットがなくても喜んで仕事をします。こう見ると、なんだか幸せそうですね。「目的性の高い仕事」とは、何か別の目的を達成するための手段としての仕事ではなくて、仕事それ自体が目的であるような仕事のことを言います。

でもぼくは、自分にとって目的性が高かった塾講師のバイトを当然のように辞めて、公務員としてフルタイムで働き始めました。なぜか。それは、このバイトがお金を稼ぐ手段としては弱かったからです。バイトで稼げるお金は、どんなに頑張ってもたかが知れています。これでは、若いうちは良いですが、だんだんしんどくなってきます。

手段性の高い仕事

ぼくは塾講師のバイトを辞めて、公務員になりました。

いろんな理由がありますが、早く安定した定職に就いて結婚したかったというのが主な理由です。公務員は、その手段としては最適でした。安定性は抜群で、お給料もそれなりに良く、それなりに残業して40代で年収1000万円はリアルに見える世界です。

「手段性の高い仕事」とは、仕事それ自体は楽しくないけれど、何か別の目的を達成するために適した仕事のことを言います。世の人気就職先ランキングの上位は、手段性の高さ(安定性・高収入等)が理由であるように思います。公務員は手段性の高さでは抜群です。

でも、公務員としての仕事はあまり楽しくなくて、平日は朝起きるのが憂鬱でした。いろいろな理由があり、ぼくは公務員を辞めました。

ところで仕事を手段として捉えたとき、その対象は何もお金ばかりではありません。

たとえば、「成長して市場価値が高いサラリーマンになる」ために、その手段として外資系コンサルに就職する人もいます。「有名な人気者になる」ために、その手段としてテレビ局のアナウンサーになる人もいます。「自分の才能を証明する」ために、その手段として、学者やプロ棋士になる人もいます。仕事を何かの手段として見るとき、その対象は、お金みたいに世俗的なものもあれば、自己実現みたいにキラキラしたものや、社会貢献みたいに高尚なものまでいろいろあります。また、就活するときには口先で高尚なことを言っても、実際の目的は待遇面であるというのはよくあることです。

一般的には仕事を選ぶとき、仕事それ自身の目的性の高さよりも、他の目的を達成するための手段性の高さを重視する人は多いです。それはなぜでしょうか。お給料や残業時間が数字で表せるので、目に見えて他の仕事と比較しやすいからでしょうか。

目的性の高さと手段性の高さを組み合わせれば、2×2で以下の4種類の組み合わせができます。

目的性 – 低 目的性 – 高
手段性 – 高 勝ち組・社畜 幸せ?
手段性 – 低 負け犬 夢追い人・酔狂

それぞれの要素を改めてざっくり解説すれば、

「目的性が低い」は、仕事それ自体が楽しくないこと。

「目的性が高い」は、仕事それ自体が楽しいこと。

「手段性が高い」は、仕事内容以外に何らかのメリット(金銭・待遇・環境等)が大きいこと。

「手段性が低い」は、仕事内容以外のメリットが乏しいこと。

塾講師のバイトは、ぼくにとっては目的性が高く(つまり仕事それ自体が楽しく)、手段性が低かった(仕事内容以外のメリットがあまり無い)ので、そのころのぼくは夢追い人・酔狂の部類でした。

公務員の仕事は、目的性が低く(仕事自体は楽しくなく)、手段性が高かった(仕事内容以外のメリットが大きい)ので、勝ち組・社畜の部類です。

目的性も手段性もどちらも低い仕事には就きたくないですが、諸々の理由で仕方なく就いている人もたくさんいるはずです。目的性も手段性もどちらも高い仕事に就くのが理想ですが、なかなかこれを実現できる人は多くいません。

その理由の一つは、仕事というのは、そのほとんどがつまらない(目的性が低い)ものだからです。「お金が発生する」ことの一つの条件は、人がやりたがらないことをやることです。放っておいても誰かが楽しんでやるようなことには、あまりお金は発生しません。

どの仕事を選ぶか

もちろん、目的性も手段性も高い仕事を選ぶのが良いに決まっているのですが、

人生、何でもかんでも思い通りにいくわけではありません。

過去の自分の経験から、自分は何には妥協ができて何にはこだわりがあるのかをよく考えたうえで、仕事内容を重視するのか、待遇を重視するのか、その割合を決めることで、より満足のいく仕事が選べると思います。

特に高学歴の大卒の人は、周りの目を気にしたりして、年収や待遇が良い会社ばかりを狙いがちになってしまい、その結果仕事が楽しくなくて数年のうちに離職してしまうケースが多いと感じます。

「仕事は仕事」として割り切るのも一つの手ですが、1日の起きている時間の半分またはそれ以上、しかも心身ともに充実している時間帯を捧げる仕事なので、お給料や待遇面を少し妥協してでも、自分にとって楽しく思える仕事に就くことは大事です。

ワークライフバランス

特に家族がいる場合、仕事が楽しくて仕事に打ち込むことが、必ずしも家族全員を幸せにするとは限りません。

ワークはあくまで、ライフの一部分に過ぎません。ライフ全体が最適になるためには、ワークの量やあり方はどうであるべきなのか。この答えを出す難しさが、ワークライフバランスを問うことの難しさであり、楽しさでもあると思います。

職場環境から良い仕事を選ぶ

仕事の良し悪しは、目的性と手段性の高さだけではありません。目的性や手段性は、自分自身で選んだり、努力で改善したりしやすいものですが、なかなか自分の努力ではどうにもならない要素も存在します。

その大きな一つの要素に、「職場環境」があります。

人、特に上司

「職場環境」には、場所やオフィスの清潔感等々いろいろありますが、中でも最重要なのが「人」です。

特に、人は人に評価・承認されたい生き物です。そうであれば、自分を評価・承認する立場である上司や雇用主は、非常に重要な存在です。

良い上司とは

良い上司は、一般的に定義することが難しいです。なぜなら、部下の一人ひとりにとって、良い上司というのは異なるからです。

部下はそれぞれがそれぞれの目的を持っています。「会社人としての成長」「楽しく仕事がしたい」「何か大きなことを達成したい」「仕事はどうでもいいから早く帰りたい」などなど。それぞれのモチベーションが違うので、ひとりひとりにとって、良い上司像は異なります。

とはいえ、大まかな傾向としては以下の4つは挙げられます。

  • 褒め上手
  • 聞き上手
  • 部下を信頼し、任せる
  • 公明正大

しかし、上司を選ぶことは非常に難しく、運任せの面が否めません。したがって、大事なことは、悪い上司にあたってしまった場合、特に理不尽に叱られまくる場合は、自分を責め過ぎず、適切な程度に上司を(心の中で)責めることが大切です。そうすることで自分を正常に保ち、その期間を「やり過ごす」というオプションがうまれます。

一方、良い上司にあたった場合には、なぜその上司が良いのか、自分が真似できるところは何か、きっちりと学ぶ(盗む)ことで、自分が上司の立場になったときに活きるはずです。

良い雇用主とは

社長はどういう人が良いでしょうか。

社長という人種は、ほとんどがビジネスマンタイプです。また、事業面で成功する社長ほどその傾向が顕著です。ビジネスマンタイプの社長は、お金を作ることを最善とし、隙あらば顧客からお金を、従業員から労働を搾り取ろうとします。というと聞こえが悪いですが、これは従業員を(リストラや倒産等から)守ることに繋がります。

一方、何らかの崇高な理念があって、良い事業をすること、良い職場を作ることを最善とする社長も中にはいると思います。ただ、そんな悠長なことばかり考えていては、競争が厳しい社会の中、会社はすぐに潰れてしまい、従業員にとって一番不幸な状態になってしまいます。これでは本末転倒なので、当然ですが社長はやはり利益を執拗に追い続ける必要があり、そのためには異常に辣腕であるか、さもなくばどこかで鬼の顔を見せる必要が出てきます。

社長は

  • 異常に優秀
  • 従業員に厳しい

のどちらかで無いと、従業員を守り続けることがなかなかできません。

「あえて」中小企業という選択

大企業であれば、社長の人柄が平社員の仕事にまで与える影響はなかなか見えづらいですが、中小企業では、「就職先を選ぶ」=「社長を選ぶ」に近いものがあります。

これは中小企業で働くことの一つのメリットです。中小企業の場合には大企業よりも、自分に対して指揮権を持つ人がどういう人かが働く前から見えやすいので、「誰の下で働きたいか」という基準で仕事を選ぶことができます。

「仕事内容よりも一緒に働く人の方が大事」という人は、実は大企業よりも中小企業を選ぶメリットが大きいです。有名で規模が大きい会社でなくても、事業成績・理念ともに優良な会社は探せばあります。

そういう自分に合った会社を探し、見つけることが、良い仕事を見つける一番簡単な方法のように思います。そして、自己分析とは本来、大企業に自分を捻じ込むためではなく、自分が本当にフィットインする会社を見つけるためにするべきものだと思います。

ミニマリスト的住まい方。地域社会圏主義の7つの基本的特徴と2つの事例

地域社会圏主義とは

基礎知識

建築家の山本理顕氏が提唱する、集合住宅の新たなモデルのこと。数百人規模で一つの「地域社会圏」を構成する。専有部分を小さく共有部分を大きくし、水回りを共有することで、住宅の効率化をはかる考え方。

出典:RIKEN YAMAMOTO & FIELD SHOP BLOG

一つ一つの住宅は「イエ」と呼ばれ、「イエ」は「見世(みせ)」と「寝間」で構成される。「見世」は外に向かってガラス張りで、人と交流することを意図した空間。カフェや古着屋、雑貨屋、お直し屋といったお店を構える場所というイメージだが、おばあさんが日向ぼっこしていてもいい。「寝間」はプライバシーを維持するための空間。寝室や書斎が主な用途。

「地域社会圏」には自給自足の考え方が浸透し、コンビニやカフェのみならず、保育、介護、学習補助から交通やエネルギーにいたるまで、集合住宅全体で一つのコミュニティ(社会圏)として成り立つ。

理念やメリット

つながりが崩壊しつつある現代日本社会で、新たにゆるやかなつながりを生み出すことが期待される。

「一住宅=一家族」のシステムが崩壊するなか、共有部分の拡大というアイデアが多くの問題を一挙に解決することが期待される。

また、最近流行の、持たないことを良しとする「ミニマリスト」的考え方ともとてもよく適合する。これからの日本の住まい方の一つの方向性として注目が高まっていくはず。

地域社会圏主義の特徴

以下、引用部分はこの本からの引用。

著:山本理顕

地域社会圏主義

専有部分のミニマル化

地域社会圏とこれまでのマンションの違いは専有と共用のバランスを変更しているところである。地域社会圏では従来のようにユニットの内部に風呂、トイレ、キッチンの設備がない。居住者はできるかぎり専有する物や設備を少なくし、小さな専有部と大きな共有部を使いこなす身軽な生活をする。そのライフスタイルをバックアップするために共用部にはコモン収納が配置され、身近な生活必需品以外をここに収納する。

水回りと収納を共用にすることで、身軽な暮らしが実現する。

ゆるやかなつながりの形成

  • 5-7人のベーシックグループで、サニタリー・水回りを共有する。
  • 複数のベーシックグループが連続的につながっている。
  • さまざまな見世が屋外広場に面していて、交流が生まれる。
  • 屋内広場では、スポーツやイベントが行われている。

地域社会圏では、こうした人のつながりが自然とできる仕組みになっている。

低めの家賃

形態 地域社会圏 ワンルームマンション
専有部分 1キューブ 2キューブ 1K
専有面積 5.8㎡ 11.6㎡ 25.0㎡
家賃 34400円 52800円 65000円

これは家賃の設定モデル。「キューブ」というのは「寝間」のこと。

これで共有部分込みの値段なので、水回りが共有であることが我慢できるならワンルームマンションを借りるよりも安くあがることが分かる。

ちなみに家賃内訳は、1キューブの容積が15立法メートルとすると、

専有部使用料金が12000円、共用部使用料金が16000円、管理費が6400円。これらの数字は当然、周辺家賃相場を反映して物件によって変わる。

地域内ワーク

住民は「見世」を利用して、物販や飲食に限らずさまざまなサービスを提供することができる。

見世でできる仕事例
  • パブ
  • パソコン制作教室
  • 犬の世話
  • 麻雀BAR
  • 洋服レンタル「おしゃれ貸します」
広場等の共用スペースでできる仕事例
  • 無農薬野菜の栽培
  • 太極拳教室

地域社会圏に住む人は、より気軽に、柔軟に、小さな単位で仕事を始めることができる。

生活コンビニ

生活相談、介護、託児、診察といった地域の助け合いシステムの中枢を担う場所を「生活コンビニ」と呼ぶ。住人のうちの希望者が時給800円で週に半日、生活サポーターとして働き、地域社会圏の生活サポートを行う。

地域社会圏は全体で500人規模が目安。うち140人が希望すると、一週間7日を半日づつに区切った14コマに割り振ることで常に10人の生活サポーターが常駐している計算になる。※

生活コンビニには、生活サポーターだけでなく、本職の介護マネージャー、保育マネージャー等が雇われている。

※時給800円で住人の3割近い人が仕事を求めるとは思えず、またこんなに効率よくシフトを割り振ることはほぼ不可能なので、この「生活コンビニ」という仕組みは、個人的には現実的ではないように思う。

コミュニティビークル

SUZUKI 第42回 東京モーターショー 2011「Q-Concept」

地域社会圏は自然の丘のように上層までスロープが連続していて、上の方にもお店がある。地域社会圏内を住人がくまなく移動できるよう、コミュニティビークルを採用する。

居住地域内の交通にはコミュニティビークル(CV)を採用する。CVは自転車や電動椅子よりも積載能力が高く、幅員の狭い道や建物のなかにも進入できる。また、地域内にはCV専用道とCVバッテリーを交換できるCVステーションのようなインフラを整備する。

最高時速20kmのCVの採用により、地域社会圏内の移動が簡単になり(=地域社会圏が『狭く』なり)、住人同士の交流がより活発化するだろう。

省エネなのに快適

地域社会圏には、画像や図を見れば分かるように、建物の構造内に半屋外の部分が数多くある。 また、緑の多い設計になっている。このようにして、全体的に心地良い風が吹き抜ける快適な住環境の形成を目指している。

また、屋上の太陽光発電にくわえ、ガスによる火力発電も地域社会圏単位で行うことにより、廃熱や送電ロスによる電気のムダをなくし、省エネ化を目指す。※

 ※確かに送電ロス等はなくなるが、その分、地域社会圏での発電に用いるガスの輸送にかかるエネルギー消費がある。このプラスマイナスを加味した上で総合的なエネルギー効率はどうなっているか、計算して提示してもらいたい。

地域社会圏主義の事例

パンギョ・ハウジング

出典:Riken Yamamoto Official web

私たちは大きく二つの提案をした。

一つは建築をクラスター状に配置する事である。敷地内には9つのクラスターがあり、各クラスターは3又は4階建ての住戸が9〜13戸集まってできている。

もう一つは各クラスターの2階レベルにパブリックな「コミューナルデッキ」をつくり、「しきい」(ハングルでは「マル」)と呼ばれる透明な空間で各住戸と結んだ事である。「しきい」は大きな玄関のような空間で、応接間・ホームオフィス・アトリエなど様々な用途に使える、周辺環境と一体化した空間である。

ソウル江南ハウジング

出典:Riken Yamamoto Official web

この計画は韓国ソウルの南、江南区に建つ低所得者層向けの集合住宅の計画である。

(中略)

”common field”には”common kitchen”や”small library”が散らばり、クラスター内部の住人達が共用で使える。広場はsports fieldやplay groundとなる。さらに、各クラスターは、保育施設や老人施設、共同作業室、図書室といったコミュニティー施設を擁し、これらの施設はクラスター内のみならず街区全体のコミュニティーの中心として機能する。

今回の我々の提案は”一住宅=一家族”システムに変わる新しい住宅である。地域にひらかれ、「地域社会圏」に基づいた住宅の提案である。

課題

社会学者の上野千鶴子さんは、山本理顕氏との対談の中で、次のように地域社会圏主義の課題を述べている。太字は引用者が付しました。

保田窪団地※も含め、公設の賃貸住宅の入居者の入居動機データを見ると、ミもフタもないことが分かります。彼らには価格訴求と立地だけが重要なのです。家賃と駅から何分かだけで住居を決めている。それがどんな建築かなんてことはまったく意に介さない。入ってみたらとんでもない建物だったというのが、保田窪団地の入居者の実感でした。でも意外とよかったという人もいないわけではありません(笑)。基本的に低コスト低家賃の公共住宅は、次に住み替えるまでの通過点なので、保田窪のよさを評価した住民も、家族や収入が増えると転出していきます。山本さんの「地域社会圏」が価格訴求と立地の他に、付加価値を評価する住民が選んで入居してくるかどうかが重要だと思います。

※保田窪団地は、山本理顕氏が設計したかなり芸術性の高い団地。こんな団地でさえ、実際の住民の居住理由は大半が価格と立地だったというのだ。

出典:Riken Yamamoto Official web

上野千鶴子さんの課題意識をもう一つ紹介する。

ただ私はやはりコミュニティや地域という言葉に対して、とても抵抗があるんです。地域社会圏というのはまさに地域と空間がくっついたものですが、空間の近接性が共同性をつくるという建築家の信念にはどうしてもついていけない(笑)。社会学者の目から見ると、そういうふうには共同性はできあがっていません。保田窪団地で調査しても、同じ階、同じ階段室で共同性なんてできないことが分かった。むしろ、有効なのはライフスタイルや価値観の共同性で、選択性が高い。

「地域社会圏」では、他人同士で水回りを共有したりすることで、ある意味強引に人と人との関係性を創りだそうという試みがなされている。

社会学者の上野千鶴子さんからみると、人間関係というのは空間的に近いとか生活空間が共同であるということからは生まれず、ライフスタイルや価値観の共同性が有効なのだとのこと。

まとめ

地域社会圏主義は、専有部分を小さく共有部分を大きくすることで、人と人とのつながりを創りだそうと試みる。

この試みは、幸福感の基準が物質的充足から人とのつながりに移行しつつある現代において、特に注目されるべき価値のあるものだ。

一方、この「理想郷」が実現し、良く機能するためには、

  • 住民たちがその価値を理解して入居すること。
  • 価値観の近い住民たちがつながりあえる工夫を施すこと。

この2点が重要になるのだと思われる。

ぼく個人の感想からいっても、安く住めて、かつ価値観の合う人たちと生活空間を共有できるのならぜひ住んでみたいと思う。

史上最高の選手か。ジョコビッチの目の前にある大記録7つと、すでに達成した記録まとめ

ジョコビッチは、史上最高のテニス選手なのだろうか?少なくとも、そうした議論の対象となるにふさわしい選手であることは間違いない。

今回の記事では、ジョコビッチが達成しつつあるテニス界の大記録を紹介していく。これら全てを達成したとき、ジョコビッチは否定のしようのない史上最高の選手になるのだろう。

 

継続中の記録

四大大会優勝回数

※四大大会とは、全豪、全仏、全英、全米オープンのこと。それぞれ年1回開催される。テニスのプロの大会の中でもっともレベルが高く、名誉ある4大会。

歴代最多優勝記録…ロジャー・フェデラーの20回

ジョコビッチは2018年9月13日現在、14回

ジョコビッチは、2016年5月~6月開催の全仏オープンで優勝して以来、四大大会での優勝から遠ざかってしまっていたが、2018年後半のウィンブルドン・全米を2連覇し、再び勢いを取り戻しつつある。

世界ランク1位在位期間

歴代最長記録…ロジャー・フェデラーの302週。

ジョコビッチは2018年4月6日現在、223週。

2016年全仏まで、最強の選手だったジョコビッチは、全仏の優勝を機にやや失速してしまっている。2016年11月、BNPパリバオープンに敗れて遂に王座陥落。ジョコビッチはアンディ・マレーに世界ランク1位の座を譲り、それ以来1位に戻れていない。

ちなみに、ジョコビッチの世界ランク1位在位期間223週は歴代5位で、彼の上には、2位サンプラス286週、3位レンドル270週、4位コナーズ268週がいる。

挑戦中の記録

年間グランドスラム

※年間グランドスラムとは…同一年の四大大会を全て制覇すること。1938年のドン・バッジ、1962年のロッド・レーバーはオープン化以前なので参考記録。

歴代達成者…1938年ドン・バッジ、1962年&1969年ロッド・レーバーのみ

ジョコビッチは、2011年と2015年に全豪・全英・全米の3大会での優勝を果たしている。

年間ゴールデンスラム

※年間ゴールデンスラムとは…年内に四大大会+オリンピックの全てで優勝すること。単に「ゴールデンスラム」とも。

歴代達成者…なし(女子ではシュテフィ・グラフが1988年に達成)

ジョコビッチにとっては、オリンピックイヤーである2016年が達成のチャンスであったが、全英で3回戦敗退・リオ五輪で1回戦敗退のため、年間ゴールデンスラム達成ならず。2020年はさすがに年齢的に厳しいと思われるため、ジョコビッチの年間ゴールデンスラム達成は難しいか。

キャリアゴールデンスラム

歴代達成者…アンドレ・アガシ、ラファエル・ナダル

ジョコビッチが達成するには、あとオリンピックでの優勝のみが必要。2020年東京五輪に優勝しての達成が期待される。

※キャリアゴールデンスラムとは、生涯のうちに四大大会とオリンピックの全てで優勝すること。

四大大会連続優勝記録

歴代最多連続記録…1938年ドン・バッジ、1962年&1969年ロッド・レーバー、そして2016年ジョコビッチの4回。

ジョコビッチは単独最多となる5連続優勝が期待されていたが、2016年7月3日全英敗退のため単独最多の達成ならず。今後の記録更新が期待される。

※1938年ドン・バッジ、1962年ロッド・レーバーはオープン化以前なので参考記録。 

すでに達成した記録

生涯グランドスラム

※生涯グランドスラムとは…四大大会(全豪・全仏・全英・全米)全てで、生涯のうちに1回以上優勝すること。「キャリア・グランドスラム」ともいう。

2016年6月5日達成!

歴代達成者…ジョコビッチのほかに、ロジャー・フェデラーやラファエル・ナダルを含む8名。

四大大会4連続優勝

2016年6月5日達成!

歴代達成者…1938年ドン・バッジ、1962年&1969年ロッド・レーバー(ただし、年間グランドスラムでもある)

※1938年のドン・バッジ、1962年のロッド・レーバーはオープン化以前なので参考記録。年間グランドスラムに似ているが、年内ではなく2年に跨って4連勝した場合のことを指す。ノン・カレンダー・イヤー・グランドスラムともいう。長いので、ジョコビッチは「ジョーカースラム」という呼び方を提案している。

ゴールデンマスターズ

※ゴールデンマスターズとは…4大大会に次ぐ非常にレベルの高い大会であるATPマスターズ1000の9大会全てを生涯のうちに制覇すること。史上最高のオールラウンドプレイヤーと名高いフェデラーでさえ成し遂げられていない偉業。

歴代達成者…ジョコビッチのみ

ジョコビッチは2018年にシンシナティ・マスターズを初めて制覇し、長年待たれていたゴールデン・マスターズをついに達成した。

マスターズ1000優勝回数記録

選手名 回数
1 ナダル 33
2 ジョコビッチ 30
3 フェデラー 27

歴代1位~3位を現役の選手が占めている。ジョコビッチはしばらくの間、このランキングで1位に君臨していたが、ナダルの怪我からの復活により2018年9月現在は2位に甘んじている。

以上が、ジョコビッチを史上最高の選手たらしめる(かもしれない)主な記録だ。いまは、フェデラー、ナダル、ジョコビッチという3人もの史上最高候補のテニス選手が揃って現役というおそろしい時代であるし、その時期に世界ランク4位まで上り詰めた錦織は本当に偉大な選手なのである。

意識は幻想なのか?自由意志の存在(とその否定)に対する、脳科学と哲学の論争のまとめ。

「自由意志」は存在する(ただし、ほんの0.2秒間だけ):研究結果|WIRED.jp

この記事が最近話題になっている。

自由意志は存在するのだろうか。簡単に言えば、「人間は、本当に自分の行動を自分の意志で自由に決定しているのだろうか」、という問いかけである。こういうことを考えたことが無い人は、自由意志はあるに決まってるんじゃないの、と思うかもしれないが、実は、そうではないかもしれないのである。

そもそも、上記記事の発端となるのは、1980年のリベットによる「運動準備電位」の研究である。リベットは、人間が腕を動かそうと意志し、腕が動くまでの過程を、電気的に測定した。その結果、

A「無意識的な電気信号(脳→筋肉)」→B「意識的な決定」→C「動作の開始」

という一連の流れについて、AとBの間に0.35秒、BとCの間に0.2秒の時間差があることが示された。リベットはこの実験により、BとCの間の0.2秒の間に、意識が運動を拒否する権利を持つと理解した。

このリベットの実験の第一の衝撃的な部分は、Bの意識的な決定の0.35秒も前に、無意識的に既に意思決定が成されているということだ。これによると、意識的に認識する前の無意識の段階で意思決定はなされていることになる。そして、自由意志が唯一もつ権利として、BとCの間の0.2秒間の拒否権が示されている。冒頭のWIREDの記事で紹介されている実験では、リベットによって示されたBとCの間の「意識の拒否権」の実在が確かめられている。

しかし、この脳科学的実験の解釈は難しいところがある。BとCの間で自由意志は拒否権を持っているとリベットは解釈をしたが、その拒否でさえ、すでに無意識が決定したものが遅れてBとCの間で表れただけという可能性が十分あるからだ。このように解釈した場合、「自由意志はやっぱり何にも決定権を持っていないよね」という結論になってしまう。

後者の解釈のしかたは、受動意識仮説という考え方を徹底した場合のものである。受動意識仮説とは、人間の意思決定は無意識的に全て行われていて、意識はそれをただただ合理的に解釈しているだけというもの。ぼく個人の意見としては、受動意識仮説はかなり直観に合う部分が多く、受動意識仮説を支持したいと考えている。

ここまでの部分は、自由意志論についての脳科学的アプローチである。

一方、自由意志というのは、生物学者よりも哲学者にとって非常に重大なテーマであり、哲学者によって長らく活発に議論されてきた。そして、哲学的論争の方がむしろ面白いとぼくは思っているので、今回の記事では、ぼくのできる範囲で、哲学における自由意志論について噛み砕いて紹介してみる。前提知識がなくても読めるよう極力配慮したので、付き合っていただければ幸いだ。

自由意志論とは

自由意志論とは、自由意志は存在するか否かを問う論議のこと。言い換えれば、人は自分の判断を主体的にコントールすることができるのか?という問いかけのことである。

自由意志は存在しない?

いまあなたはこの記事を読んでいる。この記事から離脱するかどうかは、あなたの自由だ。ふつうはそう考えるだろう。しかし、記事を読むか記事から離脱するかは、本当にあなたの意志で自由に選択できるのだろうか。あなたが記事を読み続けるかどうかは、自由意志によってではなく、物理的・化学的法則によって、あるいは自由意志を経ない無意識下の演算によって決定されているのではないだろうか。この問いは、何者でもないぼくのただの迷走的思考ではなくて、現に多くの哲学者を悩ませ続ける問題なのだ。

脳科学による挑戦状:「自由意志は存在しない」

冒頭で述べたことやその他の脳科学的な実験結果によって、「自由意志は存在しない」という立場は、ますます無視できない問題になってきている。

脳科学によると、脳はある一瞬における「内部的状態+外部の刺激」という入力に対し、ある計算を施して、その結果として、その次の瞬間における「内部的状態+外部環境への働きかけ」を出力している。脳をこのような計算機と考えれば、この計算は徹頭徹尾完成されており、自由意志がこの演算に入り込む余地はどこにもない。

これは、「メカニズム決定論」(戸田山和久「哲学入門」)と呼ばれる決定論の一つだ。決定論とは、「世界はその前の瞬間の世界の状態のみによって決定される」というもの。ここで紹介した脳科学者による決定論は、脳のメカニズムから見た決定論なので、「メカニズム決定論」と呼ばれている。

哲学者の奮闘:「自由意志の復活」

脳科学による挑戦状は、かなり強力だ。しかし、自由意志の存在を認めないとなってしまうと、人の行動は彼自身の意識の制御下にないということをも意味しかねず、それでは責任や懲罰といった概念が揺らぎ始め、社会の倫理が崩壊する可能性がある。それゆえ、哲学者はどのようにして自由意志を復活させるか、あるいは社会の倫理を保つかということに頭を悩ませてきた。私の考えでは、哲学者は自由意志を復活させることに未だに成功していない。

この記事では、哲学者たちの自由意志復活に向けた試みを紹介し、自分の考えについても軽く触れようと思う。

社会の倫理(責任)の復活

自由意志の前に、まずは、いかにして哲学者が責任という概念を復活させようと奮闘したかを書き記す。

出来事、反射、行為

まず、少し遠回りなようだが、出来事、反射(または反応)、行為という3分類について考えてみよう。次の5つの事象を、出来事、反射、行為に分けてみてほしい。

  1. 花びらが落ちること。
  2. アリが死ぬこと。
  3. アリが歩くこと。
  4. 人間のくしゃみ。
  5. 人間がジャンケンでグーを選ぶこと。

私の直観による分類では、1と2は出来事、3と4は反射、5は行為に分類される。それほどおかしな分類ではないと思う。もしかすると、3を行為と考える人も多いかもしれない。この相違はどこからくるのだろう。以下ではこの疑問に答えながら、私の考える出来事、反射、行為という3分類の境界線について説明する。

動物の神経系統の働きの有無

まずは、出来事と反射の違いについて。端的に言って、出来事と反射の違いというのは、その事象が動物の神経系統(主に脳)の働きを経て生まれたものかどうかによる。

花びらが落ちるのは、神経系統を経ていないので出来事。一方、アリが動くのは、何らかの刺激によってアリの神経系統から足に対して「動け」という命令が出されて動くのであり、こういうのを反射と呼ぶ。アリが死ぬのは、アリ自身の神経系統からの命令によるものではないので、反射ではなく出来事である。

意図の有無

次に、反射と行為の違いについて。これらの違いは、意図(=目的)の有無による。

くしゃみには目的はない*1一方、ジャンケンでグーを選ぶことには、「勝つ」という目的(=意図)がある。

先ほど、3の「アリが歩くこと」を私は反射に分類したが、これを行為と捉える人もいるかもしれないと述べた。この差異は、アリが歩くという事象に目的を見出すかどうかという違いである。アリが歩くという事象に、「餌を探し求めている」という目的を見い出せばこの事象は行為と捉えることができる。その一方で、餌を探し求めるのはアリ自身の目的ではなく、個体の生存と種の繁栄のために遺伝子にコーディングされたいわば外的な目的であると考えることもできる。この場合、アリ自身が目的(=意図)をもって歩いているとは言えず、アリが歩くのは反射ということになる。反射と行為の間に明確な境界線を設ける必要はなく、どの程度アニミズム的な解釈をするかによって、この線引きが変わってくるのは仕方ないかと思う。

哲学者の武器としての「意図」

このように考えると、疑いようもなく純粋な「行為」を行うことができるのは、人間だけだという気がしてくる。意図や目的を持って動作を行うのは人間の専売特許だと思われるからだ。

行為が意図の存在を前提とすることから、社会は行為者に対してある種の期待を持つようになる。意図が存在するゆえに、人間の行為は意図のもとで首尾一貫した、制御されたものとなる。行為が制御されているのであれば、社会的責任を行為者に認めてもいいと考えられる。そして、社会的責任が認められれば、それを基盤として懲罰についても議論することができる。

このように、行為の裏に意図の存在を認めることによって、人間の行為に社会の倫理というルールをあてがうことができるようになる。

社会の倫理は保たれた?

一部の哲学者は、人間が「意図」を持つ存在であることをとっかかりとして、このように社会の倫理を保とうとした。これは、意図が自由であるかどうかを追及しない限りはうまく機能するように思われる。

しかし、あとで述べるように、私には意志が自由でないのなら意図も自由でないように思われ、それゆえこの議論によって「責任」の概念が復活したというのは無理があるのではないかと思っている。

このことを述べる前に、次は哲学者の自由意志の復活にむけたアプローチを紹介していく。

意志とは

「意図」とは異なる概念として、「意志」というものがある。意図を「一連の動作全体の目的」とするのであれば、意志は、「ある生命体の個々の行動を決定する心の働き」と定義できる。この意志について、少し詳しく見てみよう。以下の3つの主張を見ていただきたい。

  1. 花びらには意志がない。
  2. アリには意志がない。
  3. 人間には意志がある。

1と3は、真偽については追々検討するが、一般的な直観では信じられていることだと思う。2については意見が分かれるかもしれない。アリには意志があるのだろうか。いったいどこに意志の境界線はあるのだろうか?

アリの意志

たとえば、アリが右に行くか左に行くかを決定するのは意志の働きなのだろうか。科学的には、アリはフェロモンの濃度勾配を触覚で感知して、自らの進行方向を決めている。右側の触覚の方がフェロモンを多く感知すれば右側にいくのだ。アリは、周りの物理的(または化学的)環境によって進行方向を決めているのである。

これを踏まえると、アリ自身が能動的に行き先を決めているという感じが乏しく、アリの行き先決定の裏に意志があると考えるのにはやや抵抗がある。

人間はどうだろう。たとえば人間のくしゃみは、ただ花粉やコショウが鼻に入ったための受動的な反射であり、そこに意志を読み取るのは難しい。ボウリングをしたり、人と話したり、ジャンケンでグーを出したりするのはどうだろうか。これについては、いかにも能動的に、主体的に決めている感じがして、これらの裏には意志が働いているような感じがする。

受動的か、能動的か

どうも、ある行動の裏に意志があると我々が感じるかどうかは、それが受動的か能動的かということにかかわっているように思われる。ここで、意志とは、「個々の行動を決定する能動的な心の働き」であると考えてみよう。

しかし、ここに一つの重大な問題が生じる。人は意志を能動的に生み出せるのだとしたら、その意志を生み出しているのはいったい何者なのだろうか?超自然的な存在を仮定しない限り、意志を生み出しているのは自分自身の意志以外にはありえないだろう。

これは決定的におかしい。意志を生み出すのが意志であるなら、その2番目の意志もまた、意志によって生み出されているはずである。これでは無限に意志が続いてしまう。ジャンケンでグーを出すために無限の意志の連鎖を仮定するのは馬鹿げている。

意志は能動的に生み出せない

ここまでの議論では、意志を能動的に生み出せると考えたために、意志の無限の連鎖を仮定する必要性が生じて、おかしなことになってしまった。であるならば、「意志は能動的に生み出せるものではない」と結論付けざるをえない。

能動的に生み出せないのであれば、意志は受動的に生起していると考えざるをえない。ジャンケンでグーを出すという心の動きは、受動的に生み出されたものだと考えざるをえないのだ。「心の動きが受動的に生み出される」というのがイマイチ直感的に分りにくいかもしれないが、過去のジャンケンの勝敗の経験や、「さいしょはグー」と言っているときの相手の手の形といった情報から、「グーを出そう」という心の働きないしニューロン発火が受動的に生成されていると言ってもいい。

「自由意志」の成立は厳しい

ここで述べた「意志が受動的に生成される」という考え方は、メカニズム決定論的な、脳を「ある入力に対して決まった演算を施し、おおむね一意的に出力を得る計算機」と捉える考え方とよく合致する。

そうであるならば、「意志」はメカニズム決定論の枠組みを免れ得ない。意志がメカニズム決定論の枠組みを出ないのであれば、「自由意志」の成立はかなり厳しいということになる。

物理学的な決定論

ここで、自由意志論においては必ずつきまとってくる、「物理学的な決定論」についても説明しておきたい。

物理学的な決定論とは、「この世は物理法則に支配されており、世界のある瞬間の全ての状態が分かれば、計算によって次の状態が導出できる。それゆえ世界は初めから決定している」という考え方だ。冒頭で紹介したメカニズム決定論を基礎づける考え方でもある。

古典力学的な決定論

ボールを投げたとする。そのボールは、放たれた瞬間の初速度と回転その他諸々の物理条件さえ決まっていれば、その後の運動は計算によって導出することができる。

人間の細胞を構成するタンパク質も、物理法則に従う物質だ。であるならば、その集合体である細胞、そしてその集合体である人間だって、物理法則に従うにきまっている。人間が物理法則に従うのならば、先ほどのボールと同じように、ある瞬間の人間とその周囲の状況が決まっていれば、その後のその人間の行動は計算によって導出できることになる。計算によって行動が導出できるのであれば、その人間には自分の行動を選択する余地はなかったのではないだろうか?

このように、古典力学的な決定論と自由意志は相容れないのだ。

ラプラスの悪魔

実際には、世界の全ての状態を把握できる人間なんていないので、こうしたことを考える場合には、全知全能の「ラプラスの悪魔」という存在を仮定する。宇宙の全ての原子の運動および位置が分かる存在として「ラプラスの悪魔」を仮定すると、彼には未来は完全に予測できるという考え方だ。

量子論は非決定的な世界観を持つ

実は、古典力学よりもミクロな世界を扱える理論として20世紀に表れた量子論は、非決定的な世界観をもっている。

量子力学にはさまざまな解釈が存在するが、いずれにしても世界があらかじめ一通りに決定しているとは考えず(=非決定的)、確率的なふるまいをすると考える。これは、人間の計算能力の問題でなくて、世界そのものがそういう性質を持っているのだと考えられているのだ。

量子論は非決定的だが、自由意志を救出しない

しかし、量子論の確率的な世界観は、自由意志を救出しないと考えられている。なぜなら、世界が偶然で決まるか必然で決まるかということは、自由意志が働いているかどうかとは別の話だからだ。

自分がグーを出すかチョキを出すかが量子論的な確率によって決まっているのだとすれば、それは自分の自由意志によって決めたとはいえないのではないか。たとえ非決定的であるといっても、量子論的な確率は、自由意志の概念とは程遠いのだ。

意図は自由なのか?

ここまでで、「自由意志」の成立は厳しそうだということが分かっていただけたと思う。

それでは、初めに議論した「意図」についてはどうだろう。意図は自由なのだろうか?残念ながら、意志は自由ではないのに、意図は自由であるとする正当な理由を考えるのは至難の業だといえる。

意図は、比較的長い時間保持され、その間の意志を形作るものであると捉えることができる。それゆえ、脳の演算を仮定する際は、意志を出力するための入力の側として考えることが多く、そのためなんだか「もともとそこに存在していた」ような気がしてくる。しかし、そのことは「意図が脳の演算の外側に初めから存在する」ことを意味しない。意図だって、何らかの形で形成されたものに違いないのであり、そうであるならば脳の計算システムの呪縛を免れ得ないのだ。

このように考えると、自由意図を想定することも厳しいと考えられる。であるならば、自由ではない意図が制御した行為に対して、人はどれほどの責任を追うべきなのだろうか。

意図の存在を肯定したことで、社会の倫理は保たれたように見えたが、決して盤石とはいえないのである。

まとめ

自由意志論は非常に難しい問題で、本を読んだり自分の頭で考えたりしても、だんだん何がなんだかよくわからなくなってくる。

おそらく、予備知識無しでこの記事を読んで、すぐに書いてあることが全て分かる人はいないと思う。しかし、少しでも面白いと興味を持ってもらえ、たびたび振り返ってこのことを考えるようにしてもらえたなら、いずれこの問題の奥深さに気付いていただけると思う。

もし少しでも興味を持ってもらえたなら、

著:野矢茂樹

哲学の謎

この本の8章と9章がドンピシャでこの問題を扱っている。オムニバス形式になっているので、8章と9章だけを読んでも分かるようになっている。ぜひ手にとって本物の哲学者の言葉遣いでこの問題について読んでみてほしい。

*1:生物としては、異物を排除する目的があろうが、それは意識的な目的ではないため、本記事で扱うような話ではない。

切ない「努力教」。「黒子のバスケ」脅迫事件犯人(渡邊博史)の最終意見陳述にちょっと共感してしまった。

黒バス脅迫事件と最終意見陳述

「黒子のバスケ」脅迫事件は、犯人である渡邊博史氏が、大人気マンガ「黒子のバスケ」の関連イベント会場に脅迫文を送りつけまくる嫌がらせをした事件だ。リアルタイムで事件が連日報道されていたときは、「なんてくだらない事件なんだ…。」とぼくを含めほとんどの人が一笑に付していたと思う。

でも最近「黒子のバスケ」脅迫事件 被告人の最終意見陳述全文公開 (- Yahoo! ニュース)を読んで、意外と冷静な自己分析だなぁと感心してしまった。長いんだけど、かなり文章がうまくて最後まで読めてしまう。2016年6月時点で9.1万シェアというすごいシェア数も納得。

全文はこちらの生ける屍の結末で読めるらしいので、興味のある方はぜひ。

努力教

最終意見陳述においては「努力教」という言葉が用いられていて、ちょっと共感してしまったので以下に紹介する。

自分は拘置所の独居房で考えを巡らしました。そして、
「現在の日本の国教は『努力教』ではないのか?」
という結論にたどり着きました。この「努力教」の教養は「この世のあらゆる出来事と結果は全て当人の努力の総量のみに帰する」のこれだけです。中世の民の「全ては神の思し召しのまま」という世界観に似ています。言い換えれば「全ては努力の思し召しのまま」です。
恐らくほとんど全ての日本人がこの「努力教」の世界観を持っています。この「努力教信者」は努力という言葉を何にでも持ち出します。拘置所の収容者向けラジオから美空ひばりの曲をリクエストしたリスナーのメッセージとして「ひばりさんは天才のイメージがありますが、陰での努力たるや云々」とDJが読み上げるのが聞こえて来た時に自分は、
「美空ひばりすら努力の枠内に押し込めて語ろうとするのか。凄いご時世だな」
と思い、何とも言えない気分になりました。

かなりおおげさに書かれているにせよ、日本社会の中で「努力」が重んじられすぎているということには、とても共感できる。

当の渡邊博史氏は、5歳で同性愛に目覚め、6歳でいじめにあい、両親も教師もまともに助けてくれなかったという経緯を発端に、自分の人生に興味が持てなくなってしまい、努力することができなくなってしまったらしい。

高校を卒業してからずっと日雇いとフリーターで、年収が200万円を超えたこともなく、「負け犬の最後っ屁」といった思いで、公共の場に毒物を仕込むという罪を犯してしまったらしい。このようにまとめてしまうと救いようもないが、彼は毒物を仕込む際、なるべく被害者が出ないように工夫もしていたみたいで、そこに彼の根っこの部分の優しさのようなものも感じる。

成功=努力量が多い=えらい?

「イチローは天才ではない。努力の人だ。」といった場合、これはふつうに考えれば褒めていると捉えられる。日本には、「天才」よりも「努力の人」を評価する文化がある。「努力」するということそれ自体に価値を見出す。成功者と失敗者の違いを努力量のせいにしてしまう考え方が一般的だ。「だからあなたも頑張ればイチローみたいになれるかもしれない」と。そしてこれは、一見して美しく、また道徳的な考え方であるように見えるが、よくよく考えてみるととても残酷な一面も持っている。

なぜなら、そのような社会では、失敗した人はすなわち怠け者と考えられ、自己責任という大義名分のもとに、軽んじて扱うことが正当化されてしまうからだ。

努力教のもとでは、低収入の人や、仕事のできない人は、「努力を怠ったダメ人間」というレッテルを貼られて、ただの上っ面の成功/失敗だけでなく、その内面まで見下されてしまうことがありえるのだ。「成功=努力量が多い=えらい」の反対の、「失敗=努力量が少ない=怠け者」も多くの人が信じてしまっていることなのだ。これって結構切なくないだろうか?

努力の力の大きさ

努力は大きな力を持っているが、努力だけで全てがどうにでもなるわけではない。

松坂投手などは、「サボリのマツ」と呼ばれていたそうで、横浜高校時代はとにかく練習をサボっていたらしい。それでもあの出来だ。まあ、彼の本当の努力量は誰も知らないのだが…。でも、監督が堂々と「サボっていた」と公言するくらいだから、よほどサボっていたのだろう。

一方のぼくは、自分がいくら毎日朝から晩まで野球を練習したり筋トレをしたりしたとしても、球速100キロを超えるかどうかも怪しいと思う。

「努力は報われる」?

「努力は報われる」というのは、やはり(善意の)ウソだと思う。報われない努力だって山程ある。「努力は報われるとは限らないが、成功者は例外なく努力している」というのも、誇張だろう。松坂みたいに、大した努力もしないで甲子園で大活躍をしてしまうとんでもない才能もいるのだ。正しいのは、「努力は成功を保証しないが、正しい努力は大きな力を秘めている」ではないだろうか?

いずれにせよ、努力を崇拝することは、怠け者を軽んじて見ることにつながり、ぼくにはちょっと危ない考え方のように思われる。

渡邊博史氏の今後

本件は、2014年9月29日に懲役4年6カ月の実刑判決が確定している。とすると、単純計算では2019年3月末には釈放されるはずだ。また、彼が刑務所内で問題を起こすともあまり思えない。服役態度が優良な場合には刑期短縮がありえる。その場合、刑期の4分の3から5分の4くらいでの仮出所が目安とのことなので、2018年3月頃の仮出所もありえるだろう。

氏と面会した方の記事によると、獄中では将棋に没頭しており、他の受刑者からは将棋の先生とも呼ばれているらしい。

氏は、冒頭意見陳述の頃から「釈放されたら自殺する」と繰り返し発言していたが、刑期を経てこの考えは変わっているだろうか。人の心の痛みを推し量るのは難しいが、彼は一人で考え込む性質があるために、袋小路に迷い込んでしまっているのではないかと思う。どうか彼が刑務所内で良い友人を得て、上記を考え直してくれていたらと願う。

顔も含めて有名になりすぎてしまったので、ふつうの仕事に就くのは難しいかもしれないが、彼の文才を考えれば何かしらライター等の仕事で才能を発揮することはできるのではないかと思う。


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